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第17話

8話
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2019/06/14 06:09
美しい朝日が、花と怪盗の都を照らしだす。
シリウスと私はアパルトマンの屋上から、眠る街を見下ろしていた。
あなた

あー‥‥気持ちいい。この街の、夜が明ける瞬間はやっぱり最高ね。

シリウス
シリウス
でもこの街の裏道、複雑すぎ。
あなた

ふふ、案内人の私がいてよかったわね。

シリウス
シリウス
‥‥まったく、手のかかる女神だったな。
シリウスが「自由の女神の設計図」を朝日にかざす。
シリウス
シリウス
‥‥っていうか、ミッション成功したからいいけど。
シリウス
シリウス
アンタ、大事な場でああいう事するのやめてくれない?
あなた

あら、ああいう事ってどういう事?

シリウス
シリウス
はぁ!? 分かってるクセに。アンタ、ほんっとタチ悪いね。
レグルス
レグルス
こらこら、そんな大声を出しては人々の眠りを妨げてしまうよ。
アルタイル
アルタイル
カーテンコールにはまだ早いぜ、お二人さん。
無事に追手をまいてきた2人が、私たちの横に並ぶ。
レグルス
レグルス
「自由の女神の設計図」の奪還、ミッション コンプリートだ。
アルタイル
アルタイル
もうちょっと、パリの空気を楽しみたかったけどな。
シリウス
シリウス
‥‥‥‥‥‥‥‥。
あなた

(‥‥気付いてないフリも、ここまでね)

――そう、いつかこの時が来る事は分かっていた。
「DoT」は世界中を飛び回る、エージェント集団。
そして私の隣にいるのは、そのうちの一人。
あなた

(いつか、シリウスはいなくなる。‥‥本当は、分かってた)

レグルス
レグルス
今回のミッションは成功だ。しかし上等なエサだった分、魚に目をつけられてしまってね。
レグルス
レグルス
「ISPO」が血眼で、我々「DoT」を追っているらしい。
アルタイル
アルタイル
さっさとトンズラこいて、次のミッションに入らないとな。
アルタイル
アルタイル
チェリー、荷造りは出来てるか?
シリウス
シリウス
‥‥できてない。
シリウス
シリウス
二人とも‥‥いや、リュンヌも、聞いて。
あなた

‥‥シリウス?

シリウスは持っていた「自由の女神の設計図」を、レグルスに渡す。
シリウス
シリウス
「DoT」に、恨みはない。むしろ‥‥その、感謝しかない。
シリウス
シリウス
でも、俺は――‥‥。
レグルス
レグルス
‥‥そこまでだよ、エージェント シリウス。
レグルス
レグルス
「DoT」の掟は分かっているだろう? 俺たちに自我はない。
レグルス
レグルス
つねに優先すべきは母国の命令と、ミッションの成功だ。
レグルス
レグルス
それに「DoT」は君の言う、最高の暇つぶしを提供できるはずだけれど。
シリウス
シリウス
暇つぶしはもういい。やりたい事が見つかったから。
シリウスはレグルスを見つめたまま、私の手首をにぎる。
あなた

シリウス、貴方‥‥。

レグルス
レグルス
‥‥ミス・リュンヌ。
レグルス
レグルス
先ほど言った通り、「DoT」は徹底マークされていてね。
レグルス
レグルス
しばらく「自由の女神の設計図」を預かってもらえないかい? OK?
あなた

え、ええ‥‥OKよ。それはもちろん、喜んで。

私はとまどいながら、設計図を受け取る――と。
アルタイル
アルタイル
ついでに、横で必死なツラしてるチェリーも。
あなた

え?

シリウス
シリウス
‥‥はぁ!? 俺を預けるってカーティス、どういう事?
アルタイル
アルタイル
あっ、こら! その名はNGだろ。今の私はエージェント アルタイルだっての。
あなた

アルタイル、私がシリウスを預かるというのは‥‥。

レグルス
レグルス
――エージェント シリウスに、君に次のミッションを告げる。
レグルスがそう言った瞬間、空気がピンと張りつめる。
レグルス
レグルス
――フランス共和国、パリに残れ。
あなた

それって‥‥。

シリウス
シリウス
‥‥自我があったら「DoT」にはいられない、か。
レグルス
レグルス
いや、勘違いしないでほしいのだけれど‥‥君は「DoT」のままだよ。
シリウス
シリウス
‥‥‥‥‥‥。
シリウス
シリウス
はぁ!? ちょっと待って、意味わかんないんだけど。
レグルス
レグルス
君みたいな天才ハッカー、年中人材不足の「DoT」が手放すわけないだろう。
アルタイル
アルタイル
お前がいなくなったら、それこそオレとレグルスが潰れるって。
アルタイル
アルタイル
上からの命令だよ。お前は、ヨーロッパの窓口になれってさ。
シリウス
シリウス
「DoT」のヨーロッパの窓口?
レグルス
レグルス
「DoT」がつねに優先すべきは母国の命令と、ミッションの成功。
レグルス
レグルス
受けないという選択肢はないよ、エージェント シリウス。OK?
シリウス
シリウス
‥‥OK。そのミッション、確かに受けた。
レグルスが差しだした手にシリウスが手を重ね、打ち鳴らす。

さらにアルタイルが手を重ねてから、2人は隣のビルへ飛び移った。
レグルス
レグルス
それじゃエージェント シリウス、また次のミッションで。
アルタイル
アルタイル
次に会う時はプレイボーイになれてるといいな、チェリーボーイ!
シリウス
シリウス
うるさい! ほんっと頭の中バグってるよ! ロックの歌い過ぎでくたばれ!
罵倒が響く中、2人のエージェントは颯爽と消えていく。
あなた

‥‥さ、帰りましょうか。カフェ エトワールに。

あなた

勝利のハンバーガー、気合いれて作るわよ。

シリウス
シリウス
今はいい。ハンバーガーの気分じゃない。
あなた

あら? ハンバーガー狂が珍しい。それじゃ、どんな気分?

シリウス
シリウス
‥‥アンタに、キスしたい気分。
あなた

あ‥‥‥‥。

ハッと顔を向けた瞬間、私の唇が重なる。
いつもキーボードに触れていたシリウスの指先が、私の頬に触れた。
触れ方から感じるのは、ためらいと――そして、不器用な優しさだ。
あなた

(私はいつも、本当は‥‥この指先に、触れられたかった)

あなた

‥‥でもよかったの? 「DoT」の二人と離れて。

あなた

もし、私の為だったら――。

シリウス
シリウス
アンタのためじゃなくて、俺のため。俺がアンタといたくて残るワケ。
あなた

‥‥ふふ。その理由なら、大歓迎だわ。

シリウス
シリウス
口は素直じゃないって、アンタに前に言われたけど。
シリウス
シリウス
今くらい、言ってあげる。‥‥俺はアンタが好きだよ。
私を抱きしめたシリウスが――先ほどより少し強引な、キスをする。
パソコンやら電子機器やらを隠し持った体は、ゴツゴツしているが、
その背中に手を回した瞬間、私は最高の幸福を感じたのだった――。

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