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入院して3日が経った。
点滴治療の結果、すっかり熱が下がって
咳も出なくなり、回復しつつあった。
それでもやっぱりまだ本調子じゃなくて、
先生いわく、点滴もまだ必要らしい。
治療に専念しているためか、
宿題に手をつけようとする意思が
まったく湧いてこない。
病院に図書室なんてあるの?
_____ドキン。
男の子……。
もしかしたら、また逢えるかもしれない。
なんて思うと、ドキドキして
ソワソワしてとたんに落ち着かなくなる。
へー。
行ってみよう、かな。
もしかしたら、彼に逢えるかも
しれないし。
ここからだと少し離れているらしく、
宮下さんは親切に地図を
書いてくれた。
早く終わらないかな。点滴。
もう一度、彼に逢いたい。
理由はわからないけど、そう思った。
点滴後、
地図を頼りに院内を歩きまわって、
やっと図書室にたどりついた。
入った瞬間、棚にはたくさんの本が
びっしり並べられていた。
実は小説を読むのも好きだったりする。
ここで読めるように、テーブルやイスも
用意されている。
宿題をしようという気は、すっかり
なくなってしまった。
なによりも今は、どんな本があるのか
気になってワクワクする。
…けどそこに彼の姿はない。
それを知って、一気に落胆する。
やっぱり簡単には逢えないよね。
その中にも人がいるようだ。
小さな丸いボタンを押すと、
自動ドアが開いた。
あちこちから子どもの声が聞こえてくる。
そっか。
ここは幼稚園や小学校の子が
使えるようになってるんだ。
へぇ。
かわいいー。
ゆったりして落ち着く
車椅子に乗った子、点滴をしている子、
松葉杖をついた子…。
他にも色々な子がいる。
みんな小さいのに病気と闘ってるんだ。
ボーッと突っ立ってあたりを
見回していた私の目の前に、
ガラガラと点滴棒を引っ張って歩いてきた、
小学校1年生くらいの女のコ。
ニコッと笑う姿は、愛嬌があって
すごく可愛い。
有無を言わさずに引っ張られて、
どんどん奥へ進む。
えー……!?
絵本……?
行くなんて言ってないけど、
楽しそうにしてるからイヤとは言えない。
私を引っ張る腕を見ると、入院したときに
巻かれるネームバンドが見えた。
そこには、患者まちがいがないように、
照合用のバーコードと名前、年齢
が書かれている。
西島 咲 ちゃん。
7歳、か。
目の前には半円になって座る
小学生が数人いて、すでに咲ちゃん
もその中に溶け込んでいた。
それにしても、絵本か。
なんて思いながら、絵本を読むその人
を少し離れたところからなにげなく見た。
えっ……!
_____ドキッ。
子どもたちの前で読み聞かせをしていた
のは、逢いたいと思っていた
彼だった。
ドッドッドッドッと、激しく高鳴る鼓動。
あの日とは違いすぎる、あまりにも
優しいその笑顔に、
ありえないくらい胸が締め付けられた。
この前会ったときと雰囲気が
全然違う。
本をめくる指がしなやかで、
すごくきれい。
小さい顔に長い脚。
スラッとしていてスタイル抜群。
どれぐらいそうしていたのかは分からない。
咲ちゃんに呼ばれて、そこで初めて
ぼんやりしていたことに気づいた。
どうやら絵本の読み聞かせは
終わったらしい。
わわ、かなり注目されてる。
「誰?」なんて声も聞こえてきた。
それに気づいた彼も、
ゆっくりこっちを見て……。
______ドキッ…。
あの日とは違う、優しい瞳。
ビックリしたように一瞬だけ目を
見開いたあと、彼は
わざとらしく私から目をそらした。
ドキドキとさっきから心臓が
ものすごくうるさい。
静まれ、鼓動。
落ち着け、落ち着け。
ど、どうしよう……。
1、2年生の咲ちゃんには、ネームバンド
の名前は読めるはずもない。
一瞬、誰のことだか分からなかった。
ポッキーだから…チョコくん?
チョコくん……。
私の名前、覚えてくれたんだ…
自然と頬がゆるむ。
よく知りもしない人なのに。
だけど、なぜか惹かれる。
ずっと逢いたいと思っていたからかな?
わわ、まずい。
私今、絶対まっ赤だよ…
落ち着け。
落ち着け。
小学校高学年くらいの男の子が
私を見ていたずらっぽく笑った。
その声にいろんな子が反応して、
からかってくる。
ぎゃあぎゃあうるさい。
焦って声が上ずる。
あわてて否定すると、またからかわれた。
くそぅ、マセガキめ。
ポキくんがあきれたように笑った。
…!
トクンと大きく鼓動が跳ね上がる。
今私……ポキくんって……
しょうがないじゃん。
彼女だって言われて、焦ったんだもん。
は、恥ずかしかったし…
えっ?
あ、あいさつ!?
いきなり無茶ぶりを…。
…なんだか自己紹介のあとの質問
コーナーみたいになっちゃってる。
チュ、チュー……!?
な、なんでそんな質問を…!?
..........
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!