健人Side
息を切らせながら走り、ようやくシェアハウスに辿り着いた。
大きくて重い扉を開き、玄関に転がりこむ。
その衝動で、勝利が俺の背中からずり落ちて
どさりとフローリングに倒れ込んだ。
ごめん!勝利 !!
って言いたいけど、さすがに息が切れてるし言えない。てか、言ってる場合じゃなかった。
ぜぇぜぇと苦しそうな呼吸をしながら、冷たい床に倒れ込む勝利。髪から滴る水滴が、どんどん床をぬらしていく。
バタバタと靴を脱いで風呂場へ走る。バスタオルを掴んでまた玄関へ。
「勝利!身体起こすぞ。よし。
もううちについたからな!ゆっくり。ゆっくり息して。ほら!落ち着けー。」
一番落ち着いてないのは俺だった。
「ごほごほ!はぁっ.....はぁっ......げほ!....はぁっ......ぜぇぜぇ...........」
バスタオルで、冷たくなった身体を包みながら懸命に背中をさすった。
息ができず、苦しそうな勝利の顔が、だんだん上を向いてきた。
「ひぃっ!ひぃっ!......ひぃっ!」
まずい。さすがにこれはまずい。
「勝利!!!おい!!しっかり息しろ!!」
声をかけながら、片手でかばんをあさり、スマホを手に取る。もう自分だけの力じゃ無理だ。
電話帳を開こうとしたその時。
「えっ。何してんの。寝てろって..i」
玄関の扉を開き、驚いた顔をしてる風磨がいた。
いいタイミングで帰ってきた。
風磨は、持っていたバッグやスマホを放り出して駆け寄り、俺のあやふやな説明で状況を理解。咄嗟の判断で救急車を呼ぶことにした。
勝利の、氷のように冷たい手を握りしめながら、病院へ向かう救急車に乗っていた。
細い身体はひょいひょいと持ち上げられ、ストレッチャーに乗せられ、病院内の大きな扉の向こうに消えていった。
「おまえも体調、わりぃんだろ..?座っとけって。」
「ああ..........」
「中島?」
風磨が声をかけてきたが、完全に放心状態だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。