慶side
腰の曲がった老爺に案内されるままに
陰間茶屋の中をあるく
かなり長い廊下で
所々に障子が閉めきられた部屋があり
其の中からは忍び笑いやまぐわいの声などが微かに響く
貴は大丈夫だろうか
このような処の経験はあまり無い筈だ
振り返ってみると、少し俯き加減で歩く貴が居る
誘っちまって悪かったかな…
永い永い廊下を歩き続け
物珍しさも薄れ退屈しかけた時
老爺「長々と失礼しました、此処でお待ち下さいねぇ」
老爺「そのうち<紅梅>と<常磐>がお邪魔致しますから、どうぞお楽しみ下さい…」
嫌な笑い方をして老爺は去っていった
慶「…貴?大丈夫か?」
貴「あぁ…」
慶「すまないな、このような処は慣れないよな」
貴「大丈夫だよ」
少し無理した笑顔を向けられる
すまない、でも、どうしても逢いたい人がいるんだ
あの満月の夜
この陰間茶屋のある通りを散歩していたとき
俺は出逢ってしまったんだ
障子を開け放ち、月を見上げる
不思議な髪の色をしたそいつに
その儚い雰囲気を纏わせるそいつのことが頭から離れないんだ
もう一度だけで良い、すぐに逢えなくても構わない
一目で良いから、そいつに逢いたくて…
すまない、俺の我儘を許してくれ、貴…?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。