第23話

君に会えてよかった ~咲奈Side~
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2022/06/02 09:00
北園  咲奈
北園 咲奈
翔真くんから話を聞いて、
……本気で好きになっちゃった
北園  里奈
北園 里奈
え、ええっ!?
里奈は私の言葉に、すごく驚いていた。

眼鏡を外した徳真くんが、里奈に迫ってしまった事件があった日。

私はあの日、翔真くんに心を奪われたんだ。

* * *

その日は里奈が徳真くんに勉強を教えてもらう番だったから、私は翔真くんと一緒に帰ろうと、彼のクラスをたずねた。

すると翔真くんは日直だったのか、教室で一人、日誌を書いていた。
北園  咲奈
北園 咲奈
翔真くん
新井  翔真
新井 翔真
あ、咲奈?
ごめん。
あと少しで日誌を書き終えるから、待ってて
北園  咲奈
北園 咲奈
急いでないから、大丈夫だよ。
ゆっくり書いて
新井  翔真
新井 翔真
サンキュ
私は翔真くんの隣の席に座ると、
一生懸命日誌を書く彼の姿を、ぼんやりとながめた。


――数週間前、双子だからという理由で、
徳真くんと翔真くんの彼女に選ばれた。

形だけの彼女だけれど、その関係は、思ったよりも心地よいものだった。

これまで私に近づいてくる男子といえば、下心を持っている人ばかり。

優しくしてくれたと思えば、すぐに「彼氏いる?」とか、「付き合って」なんて言われる。

好意を寄せられて悪い気はしないけど、
どうせすぐ里奈に心変わりする人たちばかりだ。
北園  咲奈
北園 咲奈
(本当の私を見ようとしてくれた人なんて、いたのかな)
ろくに話したこともないのに、見た目や雰囲気だけで告白される私は、中身がなくて、すぐに心変わりされてしまう。

その繰り返しに疲れ果てて、付き合うことも嫌になっていた。
新井  翔真
新井 翔真
あー、やっと終わった!
咲奈、お待たせ!
翔真くんの声に、はっと我にかえる。
北園  咲奈
北園 咲奈
早いね。
もう終わったの?
新井  翔真
新井 翔真
いつもの倍のスピードで終わらせた!
咲奈を待たせたくなかったし
北園  咲奈
北園 咲奈
翔真くん……
二人がモテるのはうなずける。

イケメンってだけじゃない。

徳真くんも、翔真くんも、
いつだって下心なんてまるでない、
心からの優しさを感じる。
新井  翔真
新井 翔真
咲奈、今さらだけど……、
オレたちのワガママに付き合ってくれてありがとう
北園  咲奈
北園 咲奈
……え?
いきなりどうしたの?
新井  翔真
新井 翔真
二人にはすごく感謝してる。
……だからこそ、徳真のことで話しておきたいことがあるんだ
普段とは違う、翔真くんの真剣な表情に胸騒ぎがする。
北園  咲奈
北園 咲奈
徳真くんのこと……?
やがて翔真くんは穏やかな口調で、徳真くんの特異体質について話し始めた。

何度も驚きながら、ひと通り話を聞き終えると、私は興奮して言った。
北園  咲奈
北園 咲奈
それ……、
里奈も全く同じなの!
新井  翔真
新井 翔真
えっ?
北園  咲奈
北園 咲奈
里奈もね、紅茶を飲むと、
我を忘れて男子を口説き落としちゃうの!
北園  咲奈
北園 咲奈
まさか、里奈と同じ体質の人がいるなんて……!!
新井  翔真
新井 翔真
本当に!?
……それ、すごい偶然だな!
そのこと、里奈は知ってるの?
北園  咲奈
北園 咲奈
ううん。
里奈は全然知らないし、私も言ってない。里奈がショック受けるかなと思って……
新井  翔真
新井 翔真
オレも同じ!
とてもじゃないけど本人には言えないよな
くしゃっと笑った笑顔の裏で、いろんな苦労があったこともわかってしまう。
新井  翔真
新井 翔真
まさか、この気持ちを誰かと分かち合えるとは思わなかった!
マジで!
北園  咲奈
北園 咲奈
私も!
こんなこと、誰にも相談できなくて……
新井  翔真
新井 翔真
だよな。
オレ、咲奈に出会えて、本当によかった
北園  咲奈
北園 咲奈
ストレートに言われて、心臓がドキッと跳ねた。
北園  咲奈
北園 咲奈
(特別な意味はないんだろうけど……)
初めてわかり合えたうれしさで、
つい、心にしまっていたできごとが、口をついて出てきた。
北園  咲奈
北園 咲奈
実はね、中三の時付き合ってた元彼は、紅茶を飲んだ里奈に迫られたとたん、里奈に心変わりして……、
私、ふられちゃったんだ
そう言って、私は力なく笑った。
新井  翔真
新井 翔真
咲奈……
心配そうに見つめてくる翔真くんの表情に、
すっかり重い雰囲気になってしまったことに気づく。
北園  咲奈
北園 咲奈
あっ、暗い話してごめんね!
けど、もう過去のことだから、
今はそこまで……
新井  翔真
新井 翔真
……それ、誰にも言えなくて、
辛かっただろ?
北園  咲奈
北園 咲奈
えっ……
翔真くんは、私の心を見透かしていた。

心の奥にしまい込んだはずの暗い感情が、
じわりとにじみ出てくるのがわかる。
北園  咲奈
北園 咲奈
でも、里奈も無意識でやったことだし、誰が悪いわけでもなくて……
私は無理やり笑ってごまかしたけど、
翔真くんは私をじっと見つめて言った。
新井  翔真
新井 翔真
だからこそ、咲奈が一人で、辛いの抱え込むことになるだろ?
北園  咲奈
北園 咲奈
それは……
北園  咲奈
北園 咲奈
(……翔真くんの言うとおりだ)
誰も悪くないし、誰のせいでもないから。

誰にも言えないまま、私がガマンするしかなくて。
北園  咲奈
北園 咲奈
(……ずっと、苦しかった)
気がつくと、涙が一筋こぼれていた。
新井  翔真
新井 翔真
そいつ、バカだよ。
……こんなに優しい咲奈のこと、手放すなんて
翔真くんは手を伸ばすと、私の涙を指でそっとぬぐった。
北園  咲奈
北園 咲奈
少しだけ触れた翔真くんの指から、
優しさが伝わってきて、ドキドキする。
新井  翔真
新井 翔真
ちょっと里奈に迫られたくらいで心変わりするヤツ、別れて正解だよ
北園  咲奈
北園 咲奈
え……
言われてみればそうだ。

私は三上くんが好きで好きでしかたなかったけど、それは私だけだったのかもしれない。
新井  翔真
新井 翔真
そんな奴、どうせ里奈にもフラれるだろ
北園  咲奈
北園 咲奈
……そうだね。
あの頃、里奈は三上くんに不信感を募らせてたから、三上くんは告白すらさせてもらえなかったみたい
新井  翔真
新井 翔真
いい気味だな
鼻で笑った翔真くんにつられて、私も少し笑ってしまった。
北園  咲奈
北園 咲奈
(……あの時のこと、こんな風に笑える日が来るなんて)
翔真くんのおかげで、初めてあの時のことと、きちんと向き合えた気がする。
新井  翔真
新井 翔真
それ、オレもわかるんだ
北園  咲奈
北園 咲奈
え?
新井  翔真
新井 翔真
中学の頃、お互い好きでいい感じになってた子が、眼鏡を外した徳真が迫った途端、一気に心変わりした
北園  咲奈
北園 咲奈
そんな
新井  翔真
新井 翔真
でも、オレはまだ付き合う前だったから、傷は浅いよな。
咲奈は彼氏だったんだろ?
それってキツいよな……
新井  翔真
新井 翔真
里奈にも言えなかっただろうし
北園  咲奈
北園 咲奈
そうなの。
里奈もすごく心配してくれたけど、言えないことが何より辛くて……
新井  翔真
新井 翔真
咲奈は、これまでよく頑張ったと思うよ
新井  翔真
新井 翔真
これからは全部、オレに言えばいいから
北園  咲奈
北園 咲奈
え?
新井  翔真
新井 翔真
オレなら事情を知ってるから、
話しやすいだろ?
辛くなったら、すぐ言えよ?
そう言って、翔真くんは晴れやかな笑顔を私に向けた。
北園  咲奈
北園 咲奈
翔真くん……

――その瞬間、
ずっと動かなかった恋心が、動いた。
北園  咲奈
北園 咲奈
……私、翔真くんが、好き
新井  翔真
新井 翔真
え……?
翔真くんが、言葉を失って私を見つめたから、はっとなる。
北園  咲奈
北園 咲奈
あ、あれっ?
今、私、声に出てた……?
新井  翔真
新井 翔真
えっと、まぁ……
翔真くんはとまどいながら、うなずいた。
北園  咲奈
北園 咲奈
(私、いま、翔真くんに好きって言っちゃったの!?
……ありえない!)
全身に火がついたように、恥ずかしさで熱くなる。
北園  咲奈
北園 咲奈
まって、今のは……、
聞かなかったことにして!
恥ずかしさでうつむくと、いきなり翔真くんに手首をつかまれた。
北園  咲奈
北園 咲奈
!?
翔真くんは、うつむいた私をのぞき込むようにして言った。
新井  翔真
新井 翔真
……今の、無しなの?
北園  咲奈
北園 咲奈
えっ!?
新井  翔真
新井 翔真
オレも好きって言っても……、
無しにする?
顔を上げると、翔真くんはドキドキするほど顔を近づけて言った。
北園  咲奈
北園 咲奈
え? え?
ドキドキしすぎて、頭が回らない。
新井  翔真
新井 翔真
無しにしておく?
意地悪な笑みを浮かべた翔真くんに、
抗うことなんてできない。
北園  咲奈
北園 咲奈
……しない
観念して首を横に振ると、翔真くんは私の額に優しくキスをした。
北園  咲奈
北園 咲奈
触れられた額が熱い。

やがて離れた翔真くんを見ると、彼は恥ずかしそうにはにかんだ。
新井  翔真
新井 翔真
オレ達が付き合うって言ったら、……徳真たち、ビックリするかな
北園  咲奈
北園 咲奈
いきなりだから、驚くよね?
北園  咲奈
北園 咲奈
……でも、きっと喜んでくれると思う
新井  翔真
新井 翔真
……だよな!
じゃ、さっそく報告に行くか!
北園  咲奈
北園 咲奈
え? 今から?
新井  翔真
新井 翔真
あの二人、徳真の教室で勉強してるだろ?
驚かせてやろうぜ!
いたずらっ子のような目をして、翔真くんは私の手を取る。
北園  咲奈
北園 咲奈
翔真くんってば……
大きくて優しいその手に引かれて、私たちは一緒に教室をあとにした。

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