次の日の朝。
私は洗っておいたハンカチを手に、
正門で徳真が登校するのを待っていた。
次々と登校する生徒達を見ていると、その中に目当ての人物を発見した。
朝からキビキビと歩く徳真の姿は、凜としいて隙がない。
ドキドキしながら、徳真に近づいて挨拶をする。
徳真は私を見た途端、激しく動揺した表情を浮かべた。
不思議に思いつつ、私は徳真にハンカチを差し出した。
徳真はハンカチを見ると、ぎこちない動きで手に取った。
そう言って、徳真はさっと私をよけて校舎へと歩き出す。
すぐに後を追ったものの、
徳真は足早に歩いて、どんどん先に行ってしまう。
思わず制服のシャツをつかむと、徳真はしかたなさそうに振りかえった。
そっけない徳真の態度に、私はつかんでいた手を離した。
そして彼は、振りかえることなく行ってしまった。
そっけない徳真の態度に、モヤモヤは広がるばかりだった。
* * *
そのあとも、徳真の様子はいつもと違った。
教室移動のとき、廊下ですれ違っても目をそらされるし、
今日は徳真に勉強を教えてもらうはずが、咲奈に変更になったと聞いた。
一日中、ぐるぐるとそのことばかり考えていたけど、
私はそう心に決めて、授業が終わるまでの長い時間をじりじりと過ごした。
* * *
そして放課後。
私は勇気を出して、徳真のいる教室までやってきた。
私の声に、徳真ははっとしてこっちを見た。
徳真は、けげんな表情を浮かべた。
私がつめよると、徳真は顔を赤くして目をそらしたきり、何も答えない。
そこまで言うと、ようやく徳真は口を開いた。
私が言いかけた途端、徳真はガタッと席を立った。
徳真は素早く机に広げた本やノートを片づけて、教室を出ていってしまう。
私が呆然と徳真が去るのを見送ると、入れ替わりで咲奈が教室に入ってきた。
私の問いに、咲奈は黙って目をそらす。
含みのある咲奈の言い方に、言いしれぬ不安が広がる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。