ちゃんと笑ったのはいつだろうか。
女だからって馬鹿にされるのが嫌で、今までただがむしゃらに仕事してきた。
甘い声で男性社員に声かける後輩。
可愛く甘える後輩を横目に仕事を続ける。
...⭐︎
4月に新人が入ってきた。
眩しいくらいの笑顔に元気な声で挨拶される。
でも、教育担当が明かされた途端周りで聞こえてくる会話。
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吉野くんが入ってもう半年が過ぎた。
彼は覚えも早く、すぐに行動してくれる。
何年か働いてる社員よりよっぽど出来も良く仕事も早い。
元気に仕事してくれるのは変わらず、みんなに分け隔てなく笑顔で接する姿を目にする。
こんなわたしにも、、。
仕事を頼んだ吉野くんが帰ってこなくて、探しに廊下を出ると女性社員に捕まってる彼がいた。
廊下の隅で聞こえてきた会話。
また、残業か、、。
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仕事ができる吉野くんでさえも、彼に教えることはまだまだある。
自分の仕事なんて二の次。
定時を過ぎてみんなが帰り始める。
でも、わたしが定時に帰れるわけなんてない。
後輩達が吉野くんの腕を掴み、連れ出す。
気丈に振る舞うふりをして、束になってるファイルを持ち仕事を続ける。
誰もいないフロアで、1人仕事を続ける。
ほんとだったらやってもらう仕事、そして自分の仕事。
いつもより遅くなってようやく目処が立ったのは21時を過ぎていた。
残業の日は、行きつけの居酒屋に行く。
一杯目のお酒を一気に飲み干す。
張り詰めてた糸が切れるように涙が溢れる。
テーブルに顔をうつ伏せて泣いてると、誰かに頭を撫でられる。
頭を上げるとそこには吉野くんがいた。
カウンター席の隣に座る吉野くん。
さっきのこと謝らなきゃ。
彼に頭を下げて謝る。
涙のあとをそっと拭われる。
優しく抱きしめられると彼の温もりで涙が零れ落ちる。
私を揶揄う吉野くんを止めようとすると手首を取られ気づけば彼の顔が目の前にあった。
優しく重なる唇。
タクシーを大通りで捕まえて急いで帰ろうとした。
乗り込んできたのは吉野くん。
なんだか、本当に彼の前では素直にいられそうな気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。