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第3話

さよなら
34
2021/12/07 08:15
「もうお前のことなんて考えてない」
信じない
きっとあれは私を傷つけないための嘘だった
今だって私のことが好きのはず
だってあっちから、拓から告白してきてくれたんだから
愛花
はぁ…、はぁ、
拓の家は遠いはずだったが気づけば目の前が拓の家になっていた。
チャイムを鳴らす。
はーい……、…愛花。どうしたの
愛花
拓、好き、すきだよ、ずっと一緒にいて。
愛花
約束したよね?
拓は薄くため息を吐いてはっきりと言った。
もう愛花のことはすきじゃない。
咲がすきなんだ。
愛花
ちがうでしょ
ちがわない
もう私の心は壊れそうだった。
目からは涙が零れていた。
愛花。もういいから
もうつきまとわないで
もう恋人じゃない。他人。
愛花
言葉が出ない
昔はあんなに優しくしてくれたのに
愛花
拓、ぅ…私のこ、と、好きだった、?
しゃくりあげてしまって声がうまく出ない。
すきだったけど昔のことだよ
今はすきじゃない
もう遅いし、帰って
さよなら
拓はドアを閉めた。
静寂が辺りをつつむ。
愛花
拓……拓…すき…
ぶつぶつ呟きながら歩いていた。
気付けば自分の部屋で電気も付けずに座り込んでいた。
愛花
…ぁ、
切り絵
拓と付き合ってからほとんど切り絵なんてできていなかった。
愛花
切り絵、する……
そう呟いて、私は自分の腕にカッターの刃を突き立てた。
どうせ、拓は私のことなんて最初からなにも思ってなかったんだ。
どうせ。

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