信じない
きっとあれは私を傷つけないための嘘だった
今だって私のことが好きのはず
だってあっちから、拓から告白してきてくれたんだから
拓の家は遠いはずだったが気づけば目の前が拓の家になっていた。
チャイムを鳴らす。
拓は薄くため息を吐いてはっきりと言った。
もう私の心は壊れそうだった。
目からは涙が零れていた。
言葉が出ない
昔はあんなに優しくしてくれたのに
しゃくりあげてしまって声がうまく出ない。
拓はドアを閉めた。
静寂が辺りをつつむ。
ぶつぶつ呟きながら歩いていた。
気付けば自分の部屋で電気も付けずに座り込んでいた。
切り絵
拓と付き合ってからほとんど切り絵なんてできていなかった。
そう呟いて、私は自分の腕にカッターの刃を突き立てた。
どうせ、拓は私のことなんて最初からなにも思ってなかったんだ。
どうせ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!