パラパラと教科書を捲る音に私は耳を澄ませた。オレンジ色の光が窓から差し込み、幻想的に机の端を照らす。
教えると言ったくせに、何をしたら良いのかがわからなくて結局隣で大人しく本を読んでいるだけになってしまった。わからないところがあったら聞いてと言ったけれど、聞いてくる気がしないのは何故だろう。
私はふと顔を上げ、読んでいてもなかなか進んでいかない小説を丁寧に閉じた。
パタッと言う心地よい音と共に、紙の柔らかい薫りと空気が顔にかかる。
私は閉じた本を回転させ、表紙をじっと見つめる。
緑色と青色のグラデーションが第一印象で、何も絵が描いていないのに何処か心を惹かれたこの本の表紙は本当に好きだった。
紙なのに紙じゃないみたいにサラサラな表紙を、人差し指でそっと撫でる。
本の端にある、本を持つ自分指に視線をずらして相変わらずのため息を一つつく。
“気まずい”
自分でこんな状況を作ったくせに、自分でそんなこと思うなんて最低じゃないかと思うけれど気まずいのは事実だ。
時間が経つのが速く感じるのはただ単に日が沈んでしまったからで、これと言った理由はない。
「終わった?」
心配そうに尋ねた私に、優は不思議そうな顔をしてうんとにこやかに頷いた。
「私がいる意味なかったね」
役に立てなかったなぁと残念な思いとともに、優の達成感のある表情に満足して不思議な気持ちだった。
「全然、いてくれるだけでよかった。ありがとう」
優はそういうと私の目にかかった後ろの髪をそっと私の耳にかけなおした。
「っ…」
赤くなる。
それでも優の顔からは目を逸らさず、私も微笑んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。