数分前、お母さんが
そう言っていた。
その当時あたしは、そんな匂いはしなかったし
お母さんの気のせいだと思っていた。
あたしが気づかなかったから。
あたしがちゃんと受け止めていれば良かったのに。
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稀に見る大火事だった。
お父さんが冤罪で逮捕され、
世間も意見が傾いて来ている中で起こった〝 事件 〟
近所の人は、まるで
〝 犯罪者の子供なんか助けないように 〟
そんなふうに動いているようだった。
辺り一面は炎でいっぱい。
大人が逃げられるほどの隙間は残っていなかった。
お母さんは、あたしを優先し自分は逃げようとしなかった。
まるであたしだけを逃がすかのように最期の言葉を
言う。
近所の人も助けに来ない。
そらそーだ。
世間的には犯罪者の妻と子供なんだから(笑
あたしは手首を火傷したが、
その他は無傷で家から出ることができた。
「 あなたちゃん!! 」
「 大丈夫?! 」
突然あたしを心配してくるご近所さんたち。
「 ……っ、 」
あたしを助けないように動いていたご近所さんに
お母さんの命乞いしちゃって。
それくらい心配だったんだ。
ほーらご近所さん、だんまりしちゃって。
あたしにとってこの出来事は、
齢11才で、2度目の絶望した瞬間だった。
この〝 事件 〟にも、
お母さんを助けなかった〝 ご近所さん 〟にも。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!