「ね、今日、楽しかったね」
「うん、とっても」
「タピオカ美味しかったしー」
「新しいロリータのお店も見つけた……!」
帰り道は、竹下通りをゆっくり歩く。この楽しい時間を、二人とももっと引き延ばしたくて。
「……やっぱり、あずみちゃんは凄いね」
「え、なにどうしたの突然」
口からぽろりと言葉がこぼれて、返事が返って来るなんて思ってなくて、ほんとに無意識だったからパニくっちゃって、わたしは更に余計に喋り続けた。
「え!あの、その、えっとお洋服も作れるし、タピオカの注文も得意だし、大人と喋れるし、あとはえっと」
「なーんだ、そんなことかー」
「え」
驚いて立ち止まってしまったわたしの方へ、あずみちゃんは人ごみの中でくるっと振り返った。キャンディとメリーゴーランド柄のスカートが夢みたいにふわんと揺れた。
「なっちゃんだって素敵だよー。褒めるのが上手で、考え方が大人っぽくて、頑張り屋さん。それにー、かわいい!」
「そんな、あずみちゃんの方が」
「比較論じゃないよ」
あずみちゃんの白い手がわたしのそれを取った。やっぱり、わたしの手は武骨で、ごつごつしてて、かわいくない。声も顔も、もう少し大人になったら……
「かわいくなろうとしてるなっちゃんは、その時点でとってもかわいいよ」
……ああ、ほんとに。
わたしのヒーロー。ロリータ服のヒーロー。いつだって駆け付けてきて助けてくれる。
もう、やだ、わたし、また救われちゃう。
「……え?!ちょっとなっちゃん、なんで泣くのさー!」
「ごめんね、違うの、違うの」
「えっどうする?!タピる?!」
「いらない……」
そうして、わたしたちはいつまでもうるさいまま、原宿駅でJRに乗って、渋谷で別れて、わたしは空色のロリータ服の女の子が見えなくなるまで手を振った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!