第4話

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2019/08/31 04:22



そういえば、この服をまともに見るのは初めてだった。
試着室の薄暗い照明でも、布地の艶やかさもリボンの意匠の細やかさも、さすが原宿のお店のは違うなぁ、って的外れな感想かもしれないかもだけど。
ワンピースは白だけど、襟元のレースとかバックの編み上げとか、裾の兎のシルエットとかは黒で、たぶんあずみちゃんのとは色が反転してるんだ。凝ってるなぁ……。



鏡に背を向けて着替えを済ませて、わざわざ出してきてくれたヘッドドレスも付けて、おそるおそるカーテンを開ける。
ちょうど出てきた所だったあずみちゃんが、花が咲くみたいにわーっと笑顔になった。

「なっちゃん似合う、かぁわいい!」

あずみちゃんも、って言いたかったけど、抱き締められてうまく言えなかった。
腕から解放されてようやく、あずみちゃんを頭の先から見ることができた。やっぱり色は反転してて、あずみちゃんの普段あんまり着ない黒もすごく似合ってた。

「あずみちゃんの黒、かわいいね」
「あはは!新境地開拓しちゃったー?」

軽口を叩き合って、それからお店のかわいい壁で写真を撮った。お人形みたいに目を閉じて、背中合わせに立って、両手を組んで、膝を立てて座って、なんて店員さんの気が済むまで写真を撮ったら、もう陽はとっぷり沈んでしまっていた。

「……もう、着替えなきゃかな」
「そうだねー、可愛かったから残念。着て帰りたいぐらい。あ、お値段、ほんと見るだけなんですけど見てもいいですか?」

そう言って値札を見に行ったあずみちゃんが頭を抱えて戻ってきて、またわたしは笑ってしまった。

「いや無理あれは無理、出世したら買おうかな……やっぱ手縫いに限るわー」
「えっ、お客様、もしかして水色のお衣装も手縫いですか?」
「あ……はい、手縫いです、やっぱバイトなので、買えても年に一着とかで、あはは」

店員さんがしきりに感心するのを見て、やっぱりあずみちゃんは凄いんだなぁ、感覚が麻痺しちゃってるだけで……。

それで、わたしがお店で買った服を着てるのがなんだか気恥ずかしくて、わたしは何かもごもご言ってぱっと試着室に戻ってしまった。


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