「うう……ごめんね、わたし次はもっと頑張るから……」
「良いよーそんなに凹まなくっても!次があるって!」
ドリンクとタピオカを完璧な比率で飲み進めながら、あずみちゃんはわたしの背をどんどん叩く。タピオカが詰まりかけてちょっと危なかったのは、あずみちゃんには秘密だ。
「それに、あの店員さんちょっと怖かったもんね。疲れてたのかなー」
お喋りなあずみちゃんは話の合間にごごご、とタピオカを吸って、それを私がゆっくり考えながら返すまでの間に咀嚼して、飲み込んで、また喋る。
そんなあずみちゃんの止まる気配のないマシンガントークが、変なところでぴたりと潰えた。
「あずみちゃん……?」
あずみちゃんはもう完全に足を止めて、何かに魅入られたみたいに動かない。視線の先には、店先のショーウィンドウに並ぶ二台のトルソーと、対になったロリータ服があった。
「……すてき」
きらきら、カラコンを入れた緑の瞳は、ディスプレイライトを浴びてさらに輝きを増す。わたしはもうあずみちゃんに見惚れてしまって、ロリータなんて眼中になかった。
ワンピースとお揃いのヘッドドレスの紐が夏風にふわりと煽られて、一瞬、うるさい蝉の声がその音を潜めた、そんな錯覚がした。
「宜しければ、店内ご試着できますよ」
きぃ、と音を立てて扉が開き、エプロンドレスの店員さんが顔を覗かせた。わたしはこのまま放っておいたらショーウィンドウの前に5時間くらい居そうなあずみちゃんを、半ば引きずるみたいにしてお店に入った。
「お二人とも素敵なお召し物ですね。良ければご試着なさいますか?」
後半はほとんど夢見心地のあずみちゃんに呼びかけるみたいな声で、店員さんはわたしたちを店内に案内してくれた。
「……あ!私ぼんやりしてた!」
かと思ったら急に大きな声を出すから、わたしは店員さんと目を合わせて笑ってしまった。
「えーと、試着?できるんですか?じゃーあの白と黒の、お揃いみたいなのをお願いします!」
「え、わたしも着るの」
「当たり前だよー、お揃いなんだから!……あ、それとも、着替えるの嫌?」
途中で声を潜めたあずみちゃんの顔がちょっ と未練がましかったし、不安だけどお揃いは着てみたかったから、わたしは気丈な感じを目指して首を振った。
「ううん、大丈夫。お揃いで写真撮ろう」
やったー!って飛び上がるあずみちゃんに、店員さんはにこにこしながら黒っぽい方の衣装を手渡した。わたしのは白っぽい方で、
「お客様は瞳も髪も綺麗な黒なのでお似合いになるかと」
なんて褒められちゃって、わたしはすっかり舞い上がってしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。