私の腕を診ている間、阿部ちゃんは一言も喋らなかった。
ただ、眉間にシワを寄せながら無言で処置をしていた。
傷が思ったより深く開いてしまっていたので縫う事になった。
無言のまま処置を終えた阿部ちゃんがさっくんを呼ぶ。
さっくんが診察室に入ってくると、阿部ちゃんはようやく口を開いて話始めた。
「傷が思ったより開いてたから縫った。でも腕は大丈夫。意識がなかったのも、気絶してただけだと思う。」
神妙な顔つきで説明を聞くさっくん。
すると、病院のインターフォンが鳴り、阿部ちゃんは診察室から出て行った。
「さっくん…」
ごめんなさい、と言おうとした。でも、つづきを言う前に、彼は私を全力で抱きしめた。
「…よかった。怖かった。あなたこのまま死んじゃうんじゃないかって。」
私を後ろから抱きしめる彼の肩は震えていた。
心配してくれてるんだ。嬉しかった。彼に必要とされた気がして。
でも、それ以上に彼をここまで心配させたと言う罪悪感で胸が押しつぶされそうになっていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。