全て話終えると、さっくんが勢い良く抱きついてきた。
「あなた、話してくれてありがとう。」
後ろから苦しいくらいに抱きしめられる。
「さっくん… 苦しいよ?笑」
「あ、ごめん」
今度は後ろから優しく抱きしめてくれた。ああ、誰かに抱きしめられる感覚ってこんなだったんだ。
頭の中で、毎日ハグをしてくれた母親に想いを馳せる。
「…あ、あなたいい匂いがする…」
私の首元に顔を埋め、匂いを嗅ぐ。
ドキドキしている事を悟られてないか不安になった。
「何の匂い?」
「金木犀。誕生花なの!」
「へぇ、いい匂いだね〜」
外もすっかり暗くなった頃、車に乗り込んでさっくんの家に帰った。
帰り際に、彼はこんな事を言った。
「忘れ物ない?しばらくここには戻ってこないでしょ?」
…これからもさっくんと一緒にいていいんだ。私の過去も彼は受け入れてくれたんだ。
彼と過ごすこれからに心を躍らせながら、自分の家を後にした。
部屋からでてくる2人を陰から見ていた人がいることには気づかずに…………………
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!