そっと玄関の扉を開ける。
さっくんはまだ帰宅していなかった。
ホット胸を撫で下ろし、お風呂にお湯を張りながらシャワーを浴びて、雨水と涙を流した。
温かいお風呂にはいると、再び涙が溢れてきた。
彼が愛していたのは私ではなかった。彼は今もみなみさんを愛し続けていた。
彼が求めていたのも、私ではなかった。彼はみなみさんと送る予定だったありきたりな日常を求めていた。
私は帰らぬ人の代わりでしかなかった。
酷い虚無感と吐き気に襲われ、洗面台に少し胃液を吐く。
体を拭きながら、裸の自分に鏡越しに問いかける。
このままいれば彼と一緒にいられる。
彼はきっと私を大切にしてくれる。
だって彼にとっての私は、「みなみ」さんなのだから。
ある一つの選択肢が頭に浮かぶ。鏡の中の私は、少し苦しそうに顔を歪めたあと、覚悟を決めた顔をした。
そうだよね、自分のすべきことは自分が一番わかってる。
彼とサヨナラをしよう。
2人の関係に、終止符を打とう。
彼の心の内を彼の口から聞く前に...............
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。