流し込むように飲んだ。味なんて、どうでもよかった。飲まずにはいられなかった。ぜんぜん酔えない。二本目をあけると、グラスへ乱暴に注いだ。それを、グイッと口に持っていった。
やり場のない視線。空になったワインボトル。ほとんど使われなくなった向かい側の椅子。
いつかは、思い出すかもしれない。その期待だけを糧にしていた。けれど、それすらも失ってしまいそうだ。
僕は、ひとり置き去りか?
これまでのこと、これからのことを考えると、たまらなく苦しかった。杏奈がほかの男にとられてしまうかもしれない。僕は杏奈に捨てられる。
もう終わりだ……。
せっかくここまで、頑張ってきたのに、こんなに我慢してきたのにほかの男にとられてしまう。こんなことなら、無理やりでも家に連れ込んで、監禁しとけばよかった。嫌がっても、パニックを起こしてもいい。杏奈が、僕のものになるならそれでいい。
あぁ、……杏奈に触れたい。
僕は、携帯を手に取った。数回の呼び出し音で杏奈は出た。
「もしもし、岡田さん?」
「杏奈ちゃん、すぐ来て」
「え……」
「いますぐ……来てほしいんだ」
あんなに、好きと言ってくれていたのに急に記憶がなくなってこれまでつちかったものを全部ゼロにして、忘れたからあなたも忘れてと。
そんなこと、都合良すぎないか?
こっちだって、人生があるんだ。勝手すぎる。
もう…………、…………いいーー。手に入らないならば傷つけても構わない。……そう、おもわないか? 杏奈。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。