第75話

再会⑥
4,854
2019/04/09 10:18


 けれど、目の前にいるユウは、まるで魂が抜けたように動かない。その顔は、ほんとうに無だった。
 ユウに会いたかった。けれど、こんな再会ってあんまりだ。涙が伝って落ちていく。
「ユウ……」
「ふふ」
 すると、うしろで笑い声がした。振り返ると、桜子が口に手をあてて楽しそうに笑っている。
「……なにがそんなにおかしいの?」
 涙をぬぐい払うと桜子を睨みつけた。
「あ、ごめんなさいね。久しぶりの再会を邪魔しちゃって。だけど、残念。ユウはあなたのこと、わからないと思うわ」
「え」
「だって?」
 桜子が取り出した。それは、注射器だった。ゾクリと悪寒が走った。
「え、……まさか」
「そ、の、ま、さ、か。あはは」
 彼女は、ユウのそばへいくと、
「薬を打っちゃった。チュウって、こ、こ、にっ」
 首もとを指差した。そこには、何箇所も注射をさした痕。
 これは、夢? いいや、これは……現実。
「……うそ……っ」
「うそじゃないわ」
「しんじ……られない……どうして……そんなこと」
「だぁって、ユウってば、いくら快楽を与えてもぜんぜんなびかないの。歯がゆくて、水や食べ物を与えなかったわ。それでも、ユウは平気そうにしてた。もう悔しくて。だから、知り合いに頼んだの。心を奪うことのできる薬をちょうだいって」


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