けれど、目の前にいるユウは、まるで魂が抜けたように動かない。その顔は、ほんとうに無だった。
ユウに会いたかった。けれど、こんな再会ってあんまりだ。涙が伝って落ちていく。
「ユウ……」
「ふふ」
すると、うしろで笑い声がした。振り返ると、桜子が口に手をあてて楽しそうに笑っている。
「……なにがそんなにおかしいの?」
涙をぬぐい払うと桜子を睨みつけた。
「あ、ごめんなさいね。久しぶりの再会を邪魔しちゃって。だけど、残念。ユウはあなたのこと、わからないと思うわ」
「え」
「だって?」
桜子が取り出した。それは、注射器だった。ゾクリと悪寒が走った。
「え、……まさか」
「そ、の、ま、さ、か。あはは」
彼女は、ユウのそばへいくと、
「薬を打っちゃった。チュウって、こ、こ、にっ」
首もとを指差した。そこには、何箇所も注射をさした痕。
これは、夢? いいや、これは……現実。
「……うそ……っ」
「うそじゃないわ」
「しんじ……られない……どうして……そんなこと」
「だぁって、ユウってば、いくら快楽を与えてもぜんぜんなびかないの。歯がゆくて、水や食べ物を与えなかったわ。それでも、ユウは平気そうにしてた。もう悔しくて。だから、知り合いに頼んだの。心を奪うことのできる薬をちょうだいって」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。