第147話

非日常⑤
2,713
2019/04/29 13:35


「ユウさんと、美咲さんの試合なんて滅多に見れないから貴重でしたよ。美咲さんの打撃って体重があるからすごい威力なんですけど、それをユウさんはあっさりかわすんですよね」
「へぇ、そうなんだ」
「あれで、ふたりとも遊び半分でやってるんだからなぁ。信じられないっすよ」
 ……遊びなんだ。こんだけ注目浴びてて遊びって……なにそれ。
 思わず笑ってしまった。
「杏奈ちゃん」
 岡田さんの声がした。

 私は岡田さんにジムの中を案内してもらった。ジムの中は、とても広かった。たくさんの生徒がいて様々なトレーニングをしていた。
 ここは、プロも所属するほど有名なジムだった。一通り見て回ったあと、私はベンチに腰かけた。
「はい」
 岡田さんが差し出した飲み物を受け取る。
「……ありがとうございます」
 私の好きなつぶつぶオレンジだった。

 二週間ぶりに目覚めたとき、そばにいたのは岡田さんだった。彼は泣いていた。まるで自分のことのように私の目覚めを喜んでくれた。
 岡田さんにとって、私は浩太くんの職場の先輩なだけなのに、それは親身になって世話をしてくれた。彼はとてもいい人だ。
 艶のある自然な茶色い髪。切れ長の二重まぶた。整った顔立ち。そして、真っ直ぐな青い瞳ーー。
 なんていうか……タイプかもしれない。
「杏奈ちゃん。顔赤いよ?」
 顔を覗き込まれた。
「ふぁっ」
 変な声が出た。
「ふあ?」
「ぁ、い、いや、な、なんでもないです」
 慌てて視線をそらした。


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