「ユウさんと、美咲さんの試合なんて滅多に見れないから貴重でしたよ。美咲さんの打撃って体重があるからすごい威力なんですけど、それをユウさんはあっさりかわすんですよね」
「へぇ、そうなんだ」
「あれで、ふたりとも遊び半分でやってるんだからなぁ。信じられないっすよ」
……遊びなんだ。こんだけ注目浴びてて遊びって……なにそれ。
思わず笑ってしまった。
「杏奈ちゃん」
岡田さんの声がした。
私は岡田さんにジムの中を案内してもらった。ジムの中は、とても広かった。たくさんの生徒がいて様々なトレーニングをしていた。
ここは、プロも所属するほど有名なジムだった。一通り見て回ったあと、私はベンチに腰かけた。
「はい」
岡田さんが差し出した飲み物を受け取る。
「……ありがとうございます」
私の好きなつぶつぶオレンジだった。
二週間ぶりに目覚めたとき、そばにいたのは岡田さんだった。彼は泣いていた。まるで自分のことのように私の目覚めを喜んでくれた。
岡田さんにとって、私は浩太くんの職場の先輩なだけなのに、それは親身になって世話をしてくれた。彼はとてもいい人だ。
艶のある自然な茶色い髪。切れ長の二重まぶた。整った顔立ち。そして、真っ直ぐな青い瞳ーー。
なんていうか……タイプかもしれない。
「杏奈ちゃん。顔赤いよ?」
顔を覗き込まれた。
「ふぁっ」
変な声が出た。
「ふあ?」
「ぁ、い、いや、な、なんでもないです」
慌てて視線をそらした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。