「ねぇ」
声。
「彼女から離れなよ」
この、声。
張り詰めたこの空気。この温度。あぁ、このトーン。
うつむけていた顔を、私はあげた。
・・
いた。
生気を帯びた瞳を、男の人へ向けるあなた。それは紛れもなく、ユウだった。
「おまえ……正気に戻ったのか」
男の人が驚きの声を滲ませた。腰を掴むその力がわずかに緩む。
「彼女を離しなよ」
ユウが男の人を睨みつける。その視線は、確かな生命力を感じる。
あなたは、戻ってきた。
「はは、縛られたままのお前になにができる? この状況わかってんのか?」
「聞こえないの? 離れろって言ってるんだけど」
「うは……すげぇ殺気。瞳孔開いてるぜ?」
「…………」
男の人はユウに寄っていくと、ブラブラと手を振った。
「だけど、ほら。なにができるんだよ。今のお前にっ。なにもできねぇだろうが」
「なにが言いたいの?」
ユウは淡々と言葉を紡いでいく。けれど、馬鹿にするような口調は止まらない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!