そんな私に対して、ユウは笑った。目を細めて、ケラケラと。
あとから先生が、教えてくれた。もう少し傷が深かったら神経に達していたと。
私の骨折は、ギプスにより四週間の固定を必要としたものの、日常生活を送る上ではさほど支障はなかった。ユウのほうがずっと重症だ。
車椅子での入院生活。退院までは、まだながい。
穏やかな雲がゆらゆらと流れていく。太陽が雲に隠れたり、かと思えば顔を出したり忙しそうだった。
私は移り変わる音色に似た風の音や、心地よく耳に届く行き交う人々の話し声に耳を傾けた。
ーー桜子のこと。結論から言うと、彼女は妊娠していなかった。それを聞いたとき、ユウは肩の力を抜いた。
「本当に……よかった」
そう言って涙を流した。
その日をさかいに、ユウの目の下からクマは消えた。ずっとそのことが気になっていたに違いない。ユウは一度もそんなこと言わなかったけど。
これはあとからわかったこと。桜子は子どもができない身体だった。若い頃に繰り返した中絶。桜子は、血の繋がらない父親から暴行を受けていた。
可哀想な彼女。今さらこんなことを言っても無意味だけれど、私は気づいていた。桜子の目のおくに迷いがあったこと。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。