クッと岡田さんの口もとが緩む。彼は、蹴り上げた足に力を込めた。そして、思いきり踏み込むと、美咲さんに膝蹴りをした。
圧倒された。なんて素早い身のこなしだろう。素人の私でも、無駄な動きが一切ないと分かるほど、彼の動きは美しかった。
けれど、美咲さんも負けていない。
「だ、か、ら、手加減すんなっつったろうがっ」
膝蹴りをひたいで受け止めた美咲さんは、岡田さんの足を掴んだ。
「わっ」
バランスを崩した岡田さん。その隙をつかれ、思いきり床に叩きつけられた。そこで、試合は終わった。頭を押さえながら、岡田さんはゆっくりと起き上がる。
「いったぁ……美咲さん。ひどいな。しかも、今、目を狙ったでしょう。おかげで受け身取れなかったじゃないですか」
「ひどいもクソもあるか。おまえだって、金的攻撃しようとしやがって」
「あ、バレました?」
「馬鹿野郎」
なにやら楽しそうだ。さっきまでの張り詰めた空気はなくなっていた。
あ、意外と仲良いんだ。
ちょっと安心した。
「杏奈先輩、どうでした?」
浩太くんから声をかけられた。
「あ、うん。すごく新鮮だったよ」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!