私は、顔の前で手のひらを合わせた。
「ご、ごめんね」
「もう知らない」
「許して……ね? お願いごとあったら、き、きくよ?」
笑ってみせた。
「杏奈」
「なに?」
「キスして」
甘えるような子供っぽい表情のユウ。
ーー可愛い。
「うん……」
私はゆっくりと顔を寄せると自分から唇を重ねた。いつもよりちょっと積極的な私。ユウはちょっと恥ずかしそうに笑っていた。
なんか……新鮮な気持ち。
やっぱり好き。好きすぎて最近困る。それが、悩み。
あはは、幸せすぎるね。
「杏奈、はい。婚姻届け」
「は?」
「今日、浩太と美咲さん面会に来るって言ってたから、証人になってもらおうよ」
「え、ぇ……えぇ?」
前置きなしで、婚姻届け出すって……。
なんかユウらしい。私は、その場でサインした。
三野村杏奈から……岡田杏奈……かぁ。
「ウフフ……」
「杏奈、どうしたの? 頭おかしくなっちゃった?」
「ユウ、ひどいね」
「冗談だよ」
屈託のない笑顔。
あ、その顔好き。まぁ、ぜんぶ好きだけど。
あと少し続きます。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!