勢いよくドアを開ける。
ーーバタン。
地獄のような時間からの解放。私は限りなく深い息をはいた。
「……は、はぁ……」
全身の力が抜けていく。とてつもない脱力感。 自分に置かれた今の状況を忘れるほどだった。
レバーを引いた。ジャボジャボと勢いよく流れていく。起きていることすべて、夢だったらいいのにと思った。
けれど、これは現実。 鍵の付いていないトイレを出ると、ユウがベッドに腰掛けていた。満足そうな顔で私に笑いかける。
「間に合った?」
そう訊かれたので純粋に、
「はい」
と答えた。
「よかった」
ユウが私を見つめる。その瞳はどこか魅惑的だった。それも、ユウの計画のうちなのかもしれない。
「はぁ」
重たげな吐息を漏らす。
「ねぇ、そんなところで立ってないでこっち来なよ」
ユウが声をかけた。不安に包まれながら寄っていった。
「さてと。遊びも終わったし、そろそろ僕は仕事に行こうと思う。杏奈はどうしたい? またベッドに繋がれたい? この汗で濡れたベッドに」
私は顔をブンブンと横に振った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!