桜子様は、私にとても冷たかった。かつて何度も桜子様を、諦めさせようとした。
「桜子様、このまま岡田ユウを追い求めても……」
けれど、私の話など聞き耳を持たなかった。
「私は、ユウじゃないと意味ないの」
「しかし、」
「うるさい! あんたなんかただの使用人なのよ? いつでもクビにできるんだから!」
狂っていく桜子様。どうにか引き戻そうと頑張った。彼女のためにすべてを注いだ。けれど、彼女は見向きもしてくれなかった。
私は桜子様を愛していたーー……。
彼女を救おうとしていた。けれど、救えなかった。
一番彼女のそばにいたのは、私。救えなかったーー。
……そう。なにもできなかったのは、私のほうだった。ずっとずっと桜子様から愛されるのを待っていた。けれど、その願いは私の独りよがりだった。桜子様にとって、私はただの使用人だったのだ。それ以上のことを望む私が間違っていた。
ーー嗚呼、桜子様……私もそちらへ逝っても、イイデスカ?
手の中にあるナイフ。それを首へあてがった。
落ちて逝く意識の中で、桜子様の笑顔が鮮明に脳裏をよぎり、そして、消えていった。
また、あの世でお逢いしませう。桜子様。……--。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。