十五年も前のことだ。きみはおぼえていないだろう。言うつもりもないけど。
「ユウ、そんなところでなにしてるの?」
杏奈が部屋へやってきた。
「んーなにもしてないよー」
「ふーん、あ、ねぇ、今日行きたいところがあるんだ。双葉駅前にあるケーキ屋さん。すっごいおいしいんだって」
「いいね。行こうか」
「やった。じゃあ、支度してくるね」
階段をおりていく軽快な足音。嬉しそうだ。僕は思わず肩を揺らした。
最近、無性にきみを殺したくなる。寝ているときは特別、そんな衝動にかられる。その細い首に手をかけて、思いきり締めてしまいたい。
きみという存在をだれにも奪われたくない。ならば、いっそのこと殺したほうが楽だろう。そうおもう僕は狂っているだろうか。
日を追うごとに、僕の中にある自己抑制が欠落していくような気がする。
杏奈に言っていないこと。それは僕の弱さ。
僕は……ひとりになるのがこわい。
かつて孤独であったあの頃。その頃を思い出すと、どうにかなりそうになる。いつか杏奈が愛想を尽かしてしまう日が来るかもしれない。
そうなったら僕は……。
…………。
こわい。毎日の目覚めがこわくて堪らない。目覚めて、もし杏奈が隣にいなかったらと思うと僕はーー。
いつか、ほんとうにきみを殺してしまうかもしれない。こんな僕だけど、そばにいてくれるかな。いや、いてもらわないと困る。
だって僕には、きみしかいない。きみの心が移り変わろうと、僕には関係ない。きみは永遠に僕のものだ。
ゆっくりと立ち上がると部屋をあとにした。
可愛い可愛い杏奈。きみは、僕の檻の中。
次は『中で。』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。