「信じられない……」
「驚いた? 杏奈の部屋をこっそり覗いてさ、同じ空間を作ったんだ。結構大変だったんだよ。ネットとか家具屋を回って、揃えるのにずいぶん苦労した」
ユウが嬉しそうに私を見つめる。そして、やさしく語りかける。
「杏奈……さっきはごめん。ちょっとイタズラが過ぎた。水のことも……杏奈を自分のものにしたくてつい……」
「ユウ……」
心臓が跳ねる。
ユウの悲しげな瞳が純粋だった。そして、虚ろな視線がセクシーだった。私は、自分が監禁させていることも忘れて見惚れた。
ーーなんてきれいな顔なんだろう。
ユウが私を見て、微笑みかける。
「だから、この部屋はそのお詫び。喜んでくれるよね?」
こんなにも忠実に私の部屋を再現している。ここまで揃えるのは大変だったに違いない。
……そんなにも、私のことを?
私は頷いてしまった。
「うん……」
「……杏奈。きみが好きだ。ずっと前から。だから、離したくないんだ。わかってくれるよね?」
「……ぅん」
「ありがとう」
それから、ユウはまた私をベッドに繋ぐと、部屋を出ていった。
一人残された私。壁紙、テーブル、そして、私を繋ぐこのベッド。どれも見慣れたものばかり。それが安心したのか、次第に眠気が襲ってくる。
……疲れたな。
久しぶりの睡魔に誘われて私は目を閉じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。