「それは……やめとく」
「なんで?」
ユウの頬がすこし赤くなった。
「僕も……人のこと言えないから」
そして、困ったように笑った。ときおり彼は子どもみたいな無垢な表情を見せる。私は、そんなユウが好きだった。
ユウは警察に行かなかった。顔も知らぬ手紙の相手に同情していたのかもしれない。好きな相手に想いを伝えようとすること。それがたとえ間違ったやり方だったとしても、憎めなかったのかもしれない。
同じストーカーだった者として。それはユウの優しさなのか、それともーー。
ユウがいなくなった原因はわからない。ただ、前のように仕事で連絡が途絶えたわけではない。それだけはわかった。
『留守番電話サービスです。メッセージが十件あります。本日、午後二時十分。一件目のメッセージです。
ーー岡田? 西尾だけど、……会社無断欠勤なんて、なにやってんだよ。携帯もでねぇし……これ聞いたらすぐ連絡しろよ。
本日、午後四時四十五分。二件目のメッセージです。
八ヶ代です。岡田さん、どこにいるんですか? 取引先から電話入ってます。連絡ください。
本日ーー……』
留守番電話のメッセージ。私が来るまで、未再生だった。
携帯を取り出すと、ユウの携帯番号をタッチした。発信画面に切り替わった。しばらく待った。けれど、出ない。電話の向こうにいるであろうユウは出なかった。
それから、二度同じことを繰り返した。結果はおなじだった。機械的な呼び出し音だけが、静かなリビングに響いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。