仕事のことで訊きたいことがあったので、杏奈先輩のところへ行った。
「杏奈せんぱ……」
言いかけてやめた。先輩は誰かと話し中だった。よく見ると、話している相手は社長だった。
な、なんで、社長が……杏奈先輩と?
俺は、ちょっと気になった。だから、コッソリと聞き耳を立てた。盗み聞きじゃない。聞き耳を立てただけだ。観葉植物の陰から、ふたりのようすを眺めた。
「杏奈くん、ぜひ頼むよ」
社長は、やけに上機嫌なようすだ。けれど、杏奈先輩の表情は浮かない。
「……でも、」
戸惑うように、曖昧な言葉で濁している。
頼むって……なんの話だ?
社長は、ニコニコと話をつづける。
「息子が杏奈くんを紹介してほしいと言ってるんだよ。杏奈くんは美人だから、一目惚れしたんだろう」
「え、ぁ、……」
「一度だけでも、会ってもらえないだろうか。お見合いといっても、かしこまった形じゃないんだ」
「社長……でも、私、」
「もしかして、恋人がいるのかね?」
「そ、そういうわけではないですけど」
「じゃあ、問題ないね。頼んだよ」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。