第159話

違和感⑥
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2019/05/01 14:30


 ……なんで、私この部屋を知っているの……? こわい……こわい。私……どう、して……。
「杏奈ちゃん」
 振り返ると、岡田さんが立っていた。
「あ……」
「どうしたの?」
「え、ぁ、いや……」
「リビングわからなくなっちゃった? って、さすがに地下はないよ、杏奈ちゃん」
 クスクスと笑う彼に、私も笑顔を作ってみせた。
「そ、そうですよねっ、私……どうしちゃったのかな。この家に来て、なんだかへんなんです」
「へん?」
「なんでだろう。私……この家を知ってる……気がするんです」
「え」
「ごめんなさい。こんなこと言って……コーヒー冷めちゃいますね」
 私はその場をあとにした。コーヒーをおかわりして、それからすこし話してアパートへ送ってもらった。
 自炊して、すこし休憩したあとシャワーを浴びた。テレビでも観ようかなとリモコンに手をかけた。けれど、やめた。電気を消して、ベッドへ入る。疲れているはずなのに眠れない。
 帰りぎわ、岡田さんから抱きしめられた。私は、わけがわからず動けなかった。ただ、黙って抱擁する岡田さん。意味がわからない。
 彼のことは、知らない。事件のあと出会って、それから、知った。
 目覚めたとき、一度だけ、彼は私のことを杏奈と呼んだ。今はちゃん付けだけど。嫌じゃなかった。
 でも、不思議だ。どうしてこんなに関わってくるのだろう。浩太くんの職場の先輩ってだけなのに。
 そもそもどうして私は、浩太くんと仲がいいんだっけ? それすらも、思い出せない。
 へんだ。なにか、へんだ。ここよりも、なぜあの家のほうが落ち着くのだろう。どうして懐かしいと思ってしまうのだろう。
 キッチンの棚にあったペアのマグカップ。白と淡いブルーのシンプルなもの。あれはなんだろう。なぜ、あれを見て泣きそうになったんだろう。
 なにか、ヘンダーー。私、なにかを忘れている。そんな気がして、ならない。


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