「ユウ、どうしたの?」
「すごく心配した」
彼がそうつぶやいた。
「え」
「男に襲われているのを見たとき、心臓が止まるかと思った」
「ユウ」
「僕は……生きたここちが、しなかった」
不安そうなユウの瞳は、どこか艶めいてみえた。
今日起きた出来事を思いだす。
私が男の人から押し倒されていても、ユウは顔いろを変えなかった。男の人に胸を見られ無理やりキスされていても、平然とした態度だった。
ユウは私がそんなことをされても平気なんだと思った。けれど、違った。ユウは、悲しみを押し殺していた。
あの無表情の顔の下で、ユウはきっとーー。
もしかして、必死になって捜してくれてたのかな。私が、バーで飲んでいる間もずっとずっと……。それは、私への執着?ちがう。それは、たぶん……愛?
私は、胸がギュウッと締めつけられた。あらためてユウの深い想いに気づいた。素直にうれしかった。だからこそ、今日のことが申し訳ない。私は心の底からユウに謝った。
「ユウ……ごめん。ごめんね」
「うん」
俯き加減のユウ。
そんな悲しそうな顔しないで。
「心配させて……ほんと、ごめん。私ユウのこと考えてなかった。ユウを傷つけるようなこと……しちゃだめだよね」
「……杏奈」
「私、ひどいよね」
「…………」
「私って、ほんとだめな子」
「うん。君は悪い子だ」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。