第109話

分岐点③
3,827
2019/04/17 12:12


 彼女は言った。操り人形のようになっても、ユウはユウだと。けれど、本心ではないように思えた。
 本当は後悔していたのではないだろうか。監禁したこと。それは過ちだったと途中で気づいたのではないだろうか。
 実際のところはわからない。
 けれど、これだけは言える。あの夜、ユウを見つめる桜子の視線は、純粋に恋をする女の子だった。
 ユウは多くのことを語ろうとしない。警察には、訊かれたことを話しただろう。けれど、私にはあまり言わなかった。
 それでいい。私も訊かなかった。
 穏やかな、ほんとうに穏やかな日常。こんなふうにユウと並んで、ただ時間の流れるままに受け止める。
 それをずっと望んでいた。私は決して欲張ったりはしない。
 ただ平穏でありたかった。あなたという光を、そばで感じていたかった。そうでありたいと、強く願った。
 だから、私はユウに切り出した。五日前のことだ。
「落ち着いたら、ユウといっしょに住みたい。アパートは引き払おうと思う」
 喜んでくれると思った。すぐにオッケーしてくれると思った。ちがった。
 ユウはしばらく私を見つめたあと、視線を落とした。
「ちょっと考えさせて」
 影のかかる美しい輪郭。彼からの返事はまだ、ない。
 愛とはなんだろう。そんなことを考える。ユウにとって、愛することとはなんだろう、と。
 束縛? それとも、駆け引き?

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