彼女は言った。操り人形のようになっても、ユウはユウだと。けれど、本心ではないように思えた。
本当は後悔していたのではないだろうか。監禁したこと。それは過ちだったと途中で気づいたのではないだろうか。
実際のところはわからない。
けれど、これだけは言える。あの夜、ユウを見つめる桜子の視線は、純粋に恋をする女の子だった。
ユウは多くのことを語ろうとしない。警察には、訊かれたことを話しただろう。けれど、私にはあまり言わなかった。
それでいい。私も訊かなかった。
穏やかな、ほんとうに穏やかな日常。こんなふうにユウと並んで、ただ時間の流れるままに受け止める。
それをずっと望んでいた。私は決して欲張ったりはしない。
ただ平穏でありたかった。あなたという光を、そばで感じていたかった。そうでありたいと、強く願った。
だから、私はユウに切り出した。五日前のことだ。
「落ち着いたら、ユウといっしょに住みたい。アパートは引き払おうと思う」
喜んでくれると思った。すぐにオッケーしてくれると思った。ちがった。
ユウはしばらく私を見つめたあと、視線を落とした。
「ちょっと考えさせて」
影のかかる美しい輪郭。彼からの返事はまだ、ない。
愛とはなんだろう。そんなことを考える。ユウにとって、愛することとはなんだろう、と。
束縛? それとも、駆け引き?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!