一時間くらい経っただろうか。私は、身体をよじるようにして唸った。
「トイレ……っ」
今度はトイレに行きたくなってきた。ユウは部屋を出て行ったっきり戻ってこない。
腕は拘束具でガッチリと固定されたままだ。お腹を押さえることもできず、私は押し寄せる感覚に身体を震わせた。
こんなことなら、あんなにたくさん飲まなきゃよかった……。
監禁されて、トイレに行きたくなったのは初めてだ。
……ゆう……早く部屋へ来て!
ガチャ……ン。
ドアの開く音がした。
「杏奈」
ユウが入ってきた。
言わなきゃっ!! ユウの機嫌を損なわないようにさえすればっ……!
私は可能なかぎり顔を上げて言った。
「ユウ……っ、トイレ」
「なに?」
「トイレ……行きたいです」
「トイレ?」
「はい」
この機会の逃すわけにはいかない。私は必死な顔で、ユウを見つめた。
「トイレかぁ……うーん。そうだよね。ここへ来て一度も行ってないもんね。どうしようかなぁ」
ユウは、しばらく考えていた。ただトイレに連れていけばいいだけなのに、そんな悩むことなどあるのだろうか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。