第34話

溺愛⑤
11,445
2019/03/31 12:47


 拘束具を外した理由って、わざわざのぞき穴を教えた理由って、ユウと受付嬢がなにをしているか見せるため?
「それって……ユウの思惑通りじゃない」
 ため息まじりに呟く。私はユウの良いようにされて腹が立った。
 拘束具がなくなった今、逃げようと思えばなにか手があるかもしれない。できることはあったはずだった。のぞき穴なんて見なくてもよかった。
 声が聞きたくなければ、耳を手で塞げばいい。お布団に潜り込んで、耳を塞いでいればなにも知らなくて済む。あとからユウがなにを言っても、見てない聞いてない。そう言えばいい。
 ……なのに、だめだった。声、音……そして、視覚。穴の向こうにある景色が気になって仕方がない。
 隣の部屋でユウと受付嬢はなにをしてるの? どんな風に笑ったりしてるの? 女の人の顔……私より美人かな。
 ゴクリと息を飲んだ。そして、ゆっくり歩みよると小さなのぞき穴に瞳を合わせた。
 丸い穴から見える景色。おしゃれなインテリア、シックな壁紙。白いソファに腰かけるユウ。置かれたふたつのワイングラス。
 そして、ユウの隣で笑う女の人。ピンクのワンピースに、きらびやかなネックレス。パーマがかった細く茶色い髪、長いまつげ、パッチリとした大きな目、形のいい唇、細い首ーー。
 感嘆した。想像以上に美人だった。 抜群のスタイル。お化粧まで上手い。

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