拘束具を外した理由って、わざわざのぞき穴を教えた理由って、ユウと受付嬢がなにをしているか見せるため?
「それって……ユウの思惑通りじゃない」
ため息まじりに呟く。私はユウの良いようにされて腹が立った。
拘束具がなくなった今、逃げようと思えばなにか手があるかもしれない。できることはあったはずだった。のぞき穴なんて見なくてもよかった。
声が聞きたくなければ、耳を手で塞げばいい。お布団に潜り込んで、耳を塞いでいればなにも知らなくて済む。あとからユウがなにを言っても、見てない聞いてない。そう言えばいい。
……なのに、だめだった。声、音……そして、視覚。穴の向こうにある景色が気になって仕方がない。
隣の部屋でユウと受付嬢はなにをしてるの? どんな風に笑ったりしてるの? 女の人の顔……私より美人かな。
ゴクリと息を飲んだ。そして、ゆっくり歩みよると小さなのぞき穴に瞳を合わせた。
丸い穴から見える景色。おしゃれなインテリア、シックな壁紙。白いソファに腰かけるユウ。置かれたふたつのワイングラス。
そして、ユウの隣で笑う女の人。ピンクのワンピースに、きらびやかなネックレス。パーマがかった細く茶色い髪、長いまつげ、パッチリとした大きな目、形のいい唇、細い首ーー。
感嘆した。想像以上に美人だった。 抜群のスタイル。お化粧まで上手い。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!