狂気。
それは暴力的な精神的動揺状態のこと。
部屋へ足を踏み入れた。ユウはいた。椅子に縛られたまま、うつむいている。
「ユウっ」
私は駆け寄っていった。久しぶりにユウに会えた。
それが、どんな状況であっても嬉しかった。
もう会えないかもしれない。そんな恐怖と怯えた日々は地獄のようだった。
監禁されている部屋で、ユウはさぞ辛い表情をしていることだろう。二週間も監禁されていたのだ。やつれているかもしれない。それでも、戻ってきてくれるなら、それ以上のぞまない。
「ねぇ、ユウっ、私よっ、杏奈。わかる?」
手のひらを頬に添える。温かい。久しぶりにユウの温度に触れた。
あぁ、ユウ……よかった。
あなたはここにいた。
「ユウ。こっちを見て」
私は、ユウの顔を覗きこんだ。身体が凍りついた。
覗きこんだ先に見えたもの。それは、想像していた景色とはまったく違うものだった。
虚ろな視線。生気や活力の感じられない目つき。ユウの目は、死んだ魚のようだった。
「…………ユウ」
声を震わせた。困惑の色を隠せなかった。いつも楽しそうに笑ったり、冗談めいて怒ったりするユウ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!