第74話

再会⑤
4,873
2019/04/09 09:57


 狂気。
 それは暴力的な精神的動揺状態のこと。

 部屋へ足を踏み入れた。ユウはいた。椅子に縛られたまま、うつむいている。
「ユウっ」
 私は駆け寄っていった。久しぶりにユウに会えた。
 それが、どんな状況であっても嬉しかった。
 もう会えないかもしれない。そんな恐怖と怯えた日々は地獄のようだった。
 監禁されている部屋で、ユウはさぞ辛い表情をしていることだろう。二週間も監禁されていたのだ。やつれているかもしれない。それでも、戻ってきてくれるなら、それ以上のぞまない。
「ねぇ、ユウっ、私よっ、杏奈。わかる?」
 手のひらを頬に添える。温かい。久しぶりにユウの温度に触れた。
 あぁ、ユウ……よかった。
 あなたはここにいた。
「ユウ。こっちを見て」
 私は、ユウの顔を覗きこんだ。身体が凍りついた。
 覗きこんだ先に見えたもの。それは、想像していた景色とはまったく違うものだった。
 虚ろな視線。生気や活力の感じられない目つき。ユウの目は、死んだ魚のようだった。
「…………ユウ」
 声を震わせた。困惑の色を隠せなかった。いつも楽しそうに笑ったり、冗談めいて怒ったりするユウ。

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