第129話

欠落①
3,309
2019/04/21 11:10


 公園で待っているとやってきた。赤いランドセルを背負っている。通りすぎるのを待って、それから追いかけた。
 きれいな夕焼け空だった。金を塗りこめたような赤が、そこにあるものすべて染め上げる。
 遠くに見える山の端にもたれかかる夕日が、蜃気楼のように揺らいでいた。それは赤というよりも、光そのものだった。
 すこし前をいく影を追いかけた。深みのある朱に染まる景色のなか、その影だけが黒い塊に見えた。
「あの」
「はい?」
 すこし前を行く影がピタリと止まる。自分よりもすこし小さな影。
 わずかな沈黙。
 最近引っ越してきたらしい。見慣れない顔だから気になった。
 だれにでも、と言うことはない。それは、きみだから。
「ハンカチ、落としたよ」
「え?」
 手に持っているものを見せた。 キョトンとする目が、ハッとしたように見開かれる。
「あっ、私落としちゃったんだ」
「うん」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。最近引っ越して来たの?」
「はい。三野村杏奈って言います。五年生です」
 うん、知ってる。
「僕は、六年」
「そうですか」
 そして、きみはかけていった。

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