公園で待っているとやってきた。赤いランドセルを背負っている。通りすぎるのを待って、それから追いかけた。
きれいな夕焼け空だった。金を塗りこめたような赤が、そこにあるものすべて染め上げる。
遠くに見える山の端にもたれかかる夕日が、蜃気楼のように揺らいでいた。それは赤というよりも、光そのものだった。
すこし前をいく影を追いかけた。深みのある朱に染まる景色のなか、その影だけが黒い塊に見えた。
「あの」
「はい?」
すこし前を行く影がピタリと止まる。自分よりもすこし小さな影。
わずかな沈黙。
最近引っ越してきたらしい。見慣れない顔だから気になった。
だれにでも、と言うことはない。それは、きみだから。
「ハンカチ、落としたよ」
「え?」
手に持っているものを見せた。 キョトンとする目が、ハッとしたように見開かれる。
「あっ、私落としちゃったんだ」
「うん」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。最近引っ越して来たの?」
「はい。三野村杏奈って言います。五年生です」
うん、知ってる。
「僕は、六年」
「そうですか」
そして、きみはかけていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!