まぁ、それはいい。どうでも。
クハっと息を吐き出した。
「あはははは、その身体で、そんなひ弱な身体でどうするつもりだ? 彼女を守るのか? 馬鹿げてるよ、あなたは」
「…………」
「無視か? それとも、傷がうずくのかな?」
「……僕は、…………」
「言葉を出す力すらも残っていない、か?」
「…………」
黙るだけか、なんと情けないのだ。重心を落とした。ナイフをそれぞれの手で持ち直す。ククッと手首を返してみた。我ながらいい動きだ。腱も、筋肉も、骨も断つこのナイフ。
日々の鍛錬を怠らなかった。ジムなどで、ダラダラと不毛な時間を潰している奴らと違う。殺れる。この私に殺れないわけなど、ない。彼女を切り刻もうか、それとも、彼の動脈を裂いてやろうか。と、考えている間に彼女を切り刻もう。
三野村杏奈までは、数メートルの距離。このチャンスを狙っていた。岡田ユウに攻撃を仕掛けるフリをして、三野村杏奈へ近づく。それが、今だ。
岡田ユウ。あなたも殺してあげるけど、さきに彼女を地獄へ送ってあげるよ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!