会社にて。パソコンの前に向かって書類作成をしていたら、浩太くんがやってきた。
「杏奈先輩。ここを教えてほしいっす……」
渡された書類を見た。
「あぁ、そこは経理課がやるから、飛ばしていいって言ってたよ」
「了解です……」
そういう彼の表情はどこか暗い。 去っていこうとする浩太くん。彼の背中に声をかけた。
「浩太くん。なんか元気ないね」
ピクリと彼の肩が揺れた。ゆったりと振りかえる浩太くん。まるで幽霊みたいだ。
「杏奈先輩……」
「な、なに?」
すると、ズイッと浩太くんが近寄ってきた。
「っ……俺……もうジム行きたくないっす。だって花見の日以来ユウさんと、無理やり組み手させられるんですよ」
「そ、そうなんだ」
「手加減なしなんですよ。……俺……こわくて……いつか殺される」
涙ぐむ浩太くん。そういえば、昨日ジムから帰ってきて言っていた。
『最近、浩太と組み手するんだ。手加減? そんなことしたら浩太に申し訳ないよ』
申し訳ない、というわりにユウの表情は清々しかった。
依然として、私の前で項垂れる浩太くん。
「あの日のこと、まだ根に持ってんすよ……うぅ、身体が痛い……」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。