第131話

中で。①
4,393
2019/04/22 06:31


 会社にて。パソコンの前に向かって書類作成をしていたら、浩太くんがやってきた。
「杏奈先輩。ここを教えてほしいっす……」
 渡された書類を見た。
「あぁ、そこは経理課がやるから、飛ばしていいって言ってたよ」
「了解です……」
 そういう彼の表情はどこか暗い。 去っていこうとする浩太くん。彼の背中に声をかけた。
「浩太くん。なんか元気ないね」
 ピクリと彼の肩が揺れた。ゆったりと振りかえる浩太くん。まるで幽霊みたいだ。
「杏奈先輩……」
「な、なに?」
 すると、ズイッと浩太くんが近寄ってきた。
「っ……俺……もうジム行きたくないっす。だって花見の日以来ユウさんと、無理やり組み手させられるんですよ」
「そ、そうなんだ」
「手加減なしなんですよ。……俺……こわくて……いつか殺される」
 涙ぐむ浩太くん。そういえば、昨日ジムから帰ってきて言っていた。
『最近、浩太と組み手するんだ。手加減? そんなことしたら浩太に申し訳ないよ』
 申し訳ない、というわりにユウの表情は清々しかった。
 依然として、私の前で項垂れる浩太くん。
「あの日のこと、まだ根に持ってんすよ……うぅ、身体が痛い……」

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