第100話

再起⑥
4,687
2019/04/15 09:36


 その顔は、怒りと恥辱の念で覆い尽くされていた。復讐の塊そのもの。それは、恐ろしいほどの殺気を放っている。
「くそ……このやろぅ……ッ」
 肩で息をしながらも、血だらけの手が背後へ。そして、男の人が取り出したもの。それは、バタフライナイフだった。
 先ほどのものとは比べものにならないほど、刃がおおきく鋭い。油を練り込んだようにテラテラと光るナイフ。
「殺してやる……殺してやる。おまえも、この女も……っ!!」
 ーーオンッ
 襲いかかる殺意の塊。ユウは掴んでいた桜子の首から手を離した。
「ッ……」
 相手の攻撃を間一髪かわす。男の人の口がグワリと弾けるようにひらいた。
「それで、避けたと思ったかッ」
 男の人がナイフを持ち替える。
 ーークンッ!
 そして、手首のスナップを効かせると振り上げた。蛍光灯の光を浴びて、ナイフの先が映射する。
「死ねッ」
 凄まじい勢いで落ちてくる凶器。ユウは動かない。避けようのない体勢。
 だめ……!
「ユウッ」
 叫んだ。ユウの口もと。そこに、えがかれる穏やかな弧。
 ……っ!
 ゾッした。
「ハ……」
 この状況で、ユウは笑っていた。肌がピリピリと痺れる。

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