その顔は、怒りと恥辱の念で覆い尽くされていた。復讐の塊そのもの。それは、恐ろしいほどの殺気を放っている。
「くそ……このやろぅ……ッ」
肩で息をしながらも、血だらけの手が背後へ。そして、男の人が取り出したもの。それは、バタフライナイフだった。
先ほどのものとは比べものにならないほど、刃がおおきく鋭い。油を練り込んだようにテラテラと光るナイフ。
「殺してやる……殺してやる。おまえも、この女も……っ!!」
ーーオンッ
襲いかかる殺意の塊。ユウは掴んでいた桜子の首から手を離した。
「ッ……」
相手の攻撃を間一髪かわす。男の人の口がグワリと弾けるようにひらいた。
「それで、避けたと思ったかッ」
男の人がナイフを持ち替える。
ーークンッ!
そして、手首のスナップを効かせると振り上げた。蛍光灯の光を浴びて、ナイフの先が映射する。
「死ねッ」
凄まじい勢いで落ちてくる凶器。ユウは動かない。避けようのない体勢。
だめ……!
「ユウッ」
叫んだ。ユウの口もと。そこに、えがかれる穏やかな弧。
……っ!
ゾッした。
「ハ……」
この状況で、ユウは笑っていた。肌がピリピリと痺れる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。