泣きそうだ。でも、今は泣いたらだめだ。うつむいてぐっと堪えると、ふたたび前を向いた。
「ユウ! お願いっ、目を覚まして!」
そのときだった。
ガチャ。
「うるさいわねぇ」
ドアの向こうから桜子が現れた。彼女は、私の前までスタスタと歩んでくると、仁王立ちで見下ろした。
昼間の彼女とは違う。影のかかる彼女の顔は、ひどく不機嫌だった。
身体が震える。恐怖で潰されそうだ。
「ったくなんなの? せっかくユウとふたりきりにしてあげたっていうのに、もう少し落ち着いて話せない?」
「そ、そんなのできるわけないっ、ユウっ、聞こえてるんでしょ? 目を覚ましてっ」
「静かにしてってば」
「ねぇ、ユウ! 返事してっ」
「だから……うるさいっ」
パンっ!
瞬間、頬に衝撃を受けた。桜子の平手打ち。
驚き桜子を見上げた。見下すような彼女の視線。
「もう、我慢できない。あんたねぇ、ほんっと……ムカつくのよ」
怒りに満ちた彼女の顔。人間とは思えないほど恐ろしい形相だった。
それからは、拷問とほぼ同じだった。殴られたり蹴られたりの繰り返し。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。