第197話

愛護③
2,468
2019/05/12 13:01


 避けようと重心を落とした。が、既に拳は視界の前へあった。
 想像以上に速い……っ。
 裏拳が顔面にめり込む。眼球が衝撃で破裂するような感覚を覚えた。
「ぐはッ……ッッ」
 顔面を手で覆い、身を屈めた。脳を揺さぶられたことにより目眩がする。痛みで喉の奥から胃液が上がってきた。思いきり岡田ユウの攻撃を受けた。受けるつもりはなかった。そもそも避けた自信はあった。それでも、思い切りクリティカルヒットした。
「カハ……ッ」
 鼻血のせいで、呼吸が乱れる。脈拍が速い。
 ーー武器も持たぬやつに、負けるなどあり得ない。
 この私が負ける? そんな筈がない。私は強い。強い強い強い強い強い強い強い!!誰よりも。
 ーー負けてたまるものか。こいつなんかに……っ。
 歯を食いしばった。抜歯した部分から溢れる血液を吐き出すように喚呼した。
「岡田……ァッッッ!!」
 ナイフを握りしめる手に力を込めた。風を切るようにして足を踏み出す。間合いを一気につめる。髪をふりみだし、鋭い切っ尖を相手へ突きつけた。けれど、彼は身を翻し避けた。同時に後方へ宙返りし、そのまま金網の上へ。腰の高さまである位置から、私を見下ろすようにして立つ岡田ユウ。なんと超越した身体能力だ。


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