「痛くなったらすぐに言ってね。抱っこしてあげる」
「なにそれ、ふふ。ありがと」
冗談なのか本気なのか、どちらにしてもおかしい。クスクスと笑った。
「杏奈。香水の匂いがする」
「ぁ、うん。たまには……と思って。い、いやだった?」
「ううん。すごくいい匂い」
ユウが僅かに微笑む。ドギマギした。
……あれ、いつもいっしょにいるのに、なんか……緊張するな。
ユウが私服だから?
いつものスーツとは違い、アニエス・ベーの白いTシャツに黒いズボン。トップスもボトムスも細いシルエットで、細身体型のユウにすごく似合っていた。
ユウはセンスがいい。改めてそう思った。
電車がときおり揺れる。その度に、ユウは私がフラつかないように支えてくれた。
彼の優しさに胸がぎゅうっと締めつけられた。電車を降りて、しばらく歩いたあと映画館に着いた。
「どれ観る?」
「杏奈が観たいのでいいよ」
「えー、何でもかんでも私に合わせなくていいってば」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。