第80話

想起③
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2019/04/10 12:43


「痛くなったらすぐに言ってね。抱っこしてあげる」
「なにそれ、ふふ。ありがと」
 冗談なのか本気なのか、どちらにしてもおかしい。クスクスと笑った。
「杏奈。香水の匂いがする」
「ぁ、うん。たまには……と思って。い、いやだった?」
「ううん。すごくいい匂い」
 ユウが僅かに微笑む。ドギマギした。
 ……あれ、いつもいっしょにいるのに、なんか……緊張するな。
 ユウが私服だから?
 いつものスーツとは違い、アニエス・ベーの白いTシャツに黒いズボン。トップスもボトムスも細いシルエットで、細身体型のユウにすごく似合っていた。
 ユウはセンスがいい。改めてそう思った。
 電車がときおり揺れる。その度に、ユウは私がフラつかないように支えてくれた。
 彼の優しさに胸がぎゅうっと締めつけられた。電車を降りて、しばらく歩いたあと映画館に着いた。
「どれ観る?」
「杏奈が観たいのでいいよ」
「えー、何でもかんでも私に合わせなくていいってば」

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