第214話

不完全なふたり①
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2019/05/14 01:36


 海へ行った。沈みゆく夕日と黄金色に輝く海を、車の中から眺めた。雲の切れ間から、一番星が見えた。今日は満月らしい。
 ユウが、退院して一ヶ月が経った。傷の後遺症はまったくないと言ったら嘘になる。それでも、日常生活に支障はないし、総合格闘技だってつづけている。
 ユウはとても我慢強い人だ。入院中、痛いと彼はほとんど言わなかった。それに、リハビリだって人一倍頑張っていた気がする。
「杏奈」
 ユウがこっちを見た。整った顔立ちをしている。相変わらずほんとうに相変わらずあなたは綺麗だ。私は微笑む。
「なに?」
「……したくなった」
「え、」
「車で……していい?」
 あぁ、その目をされたら、……断れないよ。
「ーーうん」


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