海へ行った。沈みゆく夕日と黄金色に輝く海を、車の中から眺めた。雲の切れ間から、一番星が見えた。今日は満月らしい。
ユウが、退院して一ヶ月が経った。傷の後遺症はまったくないと言ったら嘘になる。それでも、日常生活に支障はないし、総合格闘技だってつづけている。
ユウはとても我慢強い人だ。入院中、痛いと彼はほとんど言わなかった。それに、リハビリだって人一倍頑張っていた気がする。
「杏奈」
ユウがこっちを見た。整った顔立ちをしている。相変わらずほんとうに相変わらずあなたは綺麗だ。私は微笑む。
「なに?」
「……したくなった」
「え、」
「車で……していい?」
あぁ、その目をされたら、……断れないよ。
「ーーうん」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。