「さっき借りてたやつ。返すよ」
ユウの漂わせる狂気。そして空気が張り詰めるほどの殺意。
「ぅぐ、ァァァ……、ッァァアっ」
発狂したように男の人が叫ぶ。
「なんで……お前が……ッ、俺のナイフを」
「さっき、ポケットから抜いたんだよ。気づかないなんて、きみ案外鈍いね」
ユウはそう言って、フッと息を吐きだした。たしかに部屋へ来てすぐ男の人はユウに近づいた。
『この間はよくも俺を脅してくれたなぁ。今度は、こっちの番だ』
男の人はユウの後ろに立つと耳もとでそう言った。触れられるほどの距離。そのチャンスをユウは見逃さなかった。
ポケットからのぞくナイフ。それを指先の動きだけでーー。
けれど、そんなこと可能なのだろうか。縛られている状態から、相手に気づかれないようにポケットから抜き取るなんてできるのだろうか。
さらに、ユウは相手が狼狽するほどのダメージを与えた。
一瞬、男の人は刺されたことに気づかなかった。それほど、ユウの動きは速かった。超越したテクニック。
あなたは一体……。
「ァ……ッ」
依然として、もがき苦しむ男の人。刺されたところを必死に押さえている。
「うぐぅ……」
「いちいちうるさいな」
ユウは、ため息まじりに呟くと立ち上がった。そばには、ユウを縛っていた紐。ナイフで切ったあとがある。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。