第89話

玩具⑤
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2019/04/12 11:51


 そして、楽しそうに笑った。暗い部屋に響く桜子の笑い声。
 あぁ、もぅ……痛みで腕も頭もズキズキする。
 これ以上の痛みを私は知らない。
「はぁ、杏奈さん虐めたら、なんだか興奮してきちゃった」
 ゆっくりとユウに近づいていく。そして、ユウに馬乗りになった。
 腕が痛む。けれど、今から味わうのは、恐らくそれを上回る痛みーー。
「ねぇ、杏奈さん。最高のものを見せてあげる」
 私に微笑みかける桜子。もう消えてなくなりたい。心からそう思う。
 なぜ、私をユウとおなじ部屋に拘束したのか。今、わかった。
「ぁん、ユウっ……気持ちいいっ」
 桜子の声。
「……ぁ、たまんないっ」
 桜子のよがった顔。そして、ふたりが繋がる光景。見たくない。私はなんども顔を背けようとした。
 けれど、叶わなかった。使用人が私の髪をわしづかみにして、無理やり前を向かせる。
「目を閉じるな」
 拒むと殴られた。
「ユウ最高っ。ねぇ、お返事して。私の名前、言ってごらん」
 すると、ユウの手がピクリと動いた。そして、桜子のせなかに手を回す。
「桜子……ちゃん」
 二週間ぶりに聞いたユウの声。けれど、それはやっぱりいつものユウじゃなかった。

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