第77話

再会⑧
4,835
2019/04/10 00:13


「あなたのことなんてどうでもいいわ」
 ふい、と視線を横に向ける桜子。私は、ドアのほうに数歩後ずさりした。ポケットに手を入れ、携帯を取り出す。
 ーーだいじょうぶ。この距離だったら桜子が止めようとしても……。
「桜子。あなたはもう終わりよ」
 110番を押した。
「それは私のセリフ」
「え」
 瞬間、頭に衝撃が走った。グラリと身体が落ちていく。
 後ろから手が伸びてきて、携帯を取られた。薄れゆく意識のなか、振り返る。
 私を見下ろすようにして立つ人影。それは、何度か見たことのある使用人だった。
 私の携帯を操作すると、彼が呟いた。
「発信を止めました」
「よくやったわ。ーー杏奈さん、そういうことであなたはもう終わり」
「そんな……ユウ……」
 薄れゆく意識の中、桜子のけたたましい笑い声が反響していた。
 ユウ。あなたはとんでもない人に愛されてしまったね。警察には言わないと言うあなた。そのあなたの優しさが、今は憎い。
 不快さにまみれながら、私の意識は腐海の底へ沈んでいった。
 絶望の先にあるものはーー。


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