とにかく心の内を押し殺しているようなそんな風に感じた。空気が張り詰めている。
……こわい。
ただならぬ気配を肌で感じながらようすをうかがう。男の人はというと、驚きもせずユウのほうを見ていた。
「お前だれだよ」
「だれだろうね」
「はぁ? 意味わかんねぇ。邪魔すんなよ」
私を押さえつける手が離れていく。男の人がユウに向き合った。その手にはナイフが握られている。ユウが怪我するかもしれない。
ゾッとした。もしかしたら、怪我では済まない可能性だってある。ユウの手に武器らしきものはない。こんな暗闇で防御なんてできるわけない。迫りくる恐怖。
警察を呼ばないと……。携帯は……あぁ、どこにあるのかわからない。
身体が震えた。頬を伝う生ぬるい汗。喉はすっかりカラカラになっていた。
だめ。いや。ユウが刺されるなんて、いやだ。どうしよう。どうしよう。
後悔しても無意味なのに、それでも、後悔せずにはいられない。軽い気持ちで男の人の誘いに乗ってしまった。いっしょに飲むくらいならいいかなんて、軽はずみにオッケーした。
そのせいで、ユウが危険にさらされている。なんてことをしてしまったんだろう。
ユウ、ごめんなさい。ごめんなさい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!