そう言った補足事項を説明した。彼女は頭を抱えた。
「嘘だよね?」
「嘘じゃないよ」
ほんとうだった。昨日のことをぜんぜん思い出せなかった。結局、杏奈は僕がなにをしたのか言ってくれなかった。
支度を済ませたあと彼女を職場へ送り届けた。杏奈はうれしそうな顔で、僕に手を振った。
あれ、なんか妙に明るいような……まぁいいか。
僕も手を振ると、車を発進させた。
……昨日、僕は杏奈になにかしたっけ? もしかして、酔った勢いで杏奈にキスしたとか?
そうだとしたら、さぞ軽いやつだと思われただろう。けれど、それは間違いだ。僕はいつだって杏奈一筋だった。彼女のためなら、見返りを求めない。なんだってできる。これまでも、そしてこれからもそうだ。
以前の僕は、杏奈を支配したいという欲念にとらわれていた。常に目の届くところへ置いておきたい。ただもう自分のものにしたい。壊れるほどに愛したい。そう思っていた。けれど、杏奈が僕を好きになってくれて少しだけ変わった。
監禁。それは愛するがゆえの過ちだったと知った。彼女の意思を尊重すること。自分の気持ちを押し付けないこと。傷つけないこと。大切に想うからこそ、すべてを受け止めたい。とはいえ昨日、自分のしたことには自信が持てない。
でも、杏奈怒ってないみたいだし……まぁ良しとしよう。あ、そういや。寝室に落ちてた紐……なんに使ったんだっけ?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。