陽がわずかにかたむいた。
「そろそろ戻ろうか」
ユウが言った。
「うん……そうだね」
私は目を伏せた。車椅子にユウが手をかけた。背を向けてゆっくりと進みはじめる。
私は座っていた。座ったまま自分の手を見つめた。ユウとの距離がひらいていく。
穏やかな日常。こんな日々を過ごせるのはいつまで? いつ、終わる?
ここ数日、ユウのようすがおかしい。笑っているけれど、心の底から笑っていない。
私が気づいていないとでも思っているのだろうか。それは大きな間違いだ。
私は気づいている。ちゃんとわかっている。だからーー。
「杏奈?」
ユウの声。彼がようやく気づいた。視界の端で、キョトンとするユウ。私は視線を落としたまま立ち上がった。
キラキラと陽の光を受けて輝く彼の目。あなたの瞳に私が映る。その中で、溺れるように揺らめく私の姿。
待っていたのに、ユウは言ってくれなかった。あの夜からたったの一度も。好きだよ、とーー。
ーー……。
咆哮。
だだっ広いこの空間に響き渡る、私の声。
喚くように
呻くように泣叫ぶ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。