第190話

波うちぎわ①
2,511
2019/05/11 02:38


 集中治療室。心電図。点滴。医療機器。そして、たくさんの管に繋がれたまま、力なく横たわるユウ。酸素マスクを装着したユウの顔はひどく疲れてみえた。
 今夜が峠とうげだと。こんな現実あんまりだ。言えたならまだマシ。言えなかった。
 だってあなた起きないんだもの。目を閉じたまま、ぜんぜん起きてくれないの。
 あなたに言おうとした。記憶を取り戻したこと。そして、桜子のこと、私の過去、トラウマ。すべて話そうと思った。でも、言いたいときには、もう遅かったんだ。
 あなたは、起きない。眠りについたまま。
 寄せては引き返す波うちぎわ。まるで、私たちみたいだね。どちらかがかならず引いてしまう。
 お互いの気持ちは同じなのに。いつも、うまくいかないよね。悲しいね。苦しいね。
 あなたがいない人生なんて……、……辛すぎるよ……ユウ。
 泣いて泣いて、とにかく泣いた。ユウは目覚めなくて、夜中が来て、一応心臓は動いていて、けれどやっぱり峠は峠。いつ死んでもおかしくない。
 私は屋上へ行った。ひとりになりたくて夜風に当たりたくて、私は屋上へ。
 深夜二時。風が冷たい。新月なのか、やけに暗い。月はどこ。光がない。


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