集中治療室。心電図。点滴。医療機器。そして、たくさんの管に繋がれたまま、力なく横たわるユウ。酸素マスクを装着したユウの顔はひどく疲れてみえた。
今夜が峠とうげだと。こんな現実あんまりだ。言えたならまだマシ。言えなかった。
だってあなた起きないんだもの。目を閉じたまま、ぜんぜん起きてくれないの。
あなたに言おうとした。記憶を取り戻したこと。そして、桜子のこと、私の過去、トラウマ。すべて話そうと思った。でも、言いたいときには、もう遅かったんだ。
あなたは、起きない。眠りについたまま。
寄せては引き返す波うちぎわ。まるで、私たちみたいだね。どちらかがかならず引いてしまう。
お互いの気持ちは同じなのに。いつも、うまくいかないよね。悲しいね。苦しいね。
あなたがいない人生なんて……、……辛すぎるよ……ユウ。
泣いて泣いて、とにかく泣いた。ユウは目覚めなくて、夜中が来て、一応心臓は動いていて、けれどやっぱり峠は峠。いつ死んでもおかしくない。
私は屋上へ行った。ひとりになりたくて夜風に当たりたくて、私は屋上へ。
深夜二時。風が冷たい。新月なのか、やけに暗い。月はどこ。光がない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。